蜜が16滴 ページ17
『雛鶴ちゃん』
「アゲハさ、」
『声を出したら駄目だ、気付かれる。強い毒を持ってきた、早くやろう。』
指定された小屋に入り、扉を閉めて鍵をかける。
懐から瓶を取り出し、クナイをそれに浸す。
雛鶴が用意したものももちろん強力だ。
だが、相手の斬撃に触れれば毒を受ける。ああいった能力を持っている者は大抵毒の分解速度が早い。
『僕がこっちを運ぶから、先に上に上がってて。』
「はい、お願いします！」
雛鶴が出ていったのを確認し、Aは粉を取り出した。Aが常に持ち歩いている鱗粉だ。
それらを手首と耳の裏にそっと乗せる。これだけ塗れば、少しは匂いが届くはず。
急いで小屋から出て雛鶴の元へと急ぐ。
手招きする方へ行けば、今まさに宇髄が戦っているところだった。
『タイミングは任せた。大丈夫、人に当たってもこの毒は作用しない。』
下には降りず、Aは上で待機。彼女に何かあってからじゃ遅い。
クナイが鬼目掛けて飛んでいく。
そのうち数本は宇髄に刺さったが、そんなものは足枷にならないのか機敏に動いていた。
血鬼術に巻き込まれかけた竈門の体を蹴り、宇髄は肆ノ型を繰り出す。
これは、こっちまで巻き込まれた中々の痛手だ。
『雛鶴ちゃん、こっち』
肩を抱くようにしてその場を離れる。視界に入らなければ少しは_____
『ッは、が、』
「お前ら、よくもやってくれたなああ…」
いつの間にか目の前に来ていた妓夫太郎。
骨ばった手はAと雛鶴の口元を固く塞いでいる。
『っぐ、』
「……柱、お前上羽一族かあ？そうだろう、匂いが他と違うなああ…？」
怪我は覚悟。命が最優先。
Aはまだ動く手で忍ばせていたクナイを刺し、手が離れた瞬間足で雛鶴を蹴る。
後で謝っておこう、きっと彼女もわかってくれるはずだ。
「そうかそうかあ、わざわざここまで来たのか、ヒヒヒッ」
他の者と違い、これ以上攻撃するような気配は感じられない。
妓夫が狙っているのは窒息による心停止だった。
どう足掻こうと、この手は離れるはずがない。
なら、今ここでやるしかない。
がり、と勢いよく内頬に歯を立てる。
口内に流れる血を下に乗せ、口を塞ぐ手に這わせた。
『が、ァ、うぅ』
「ッ熱い、なん、溶けて、お前ッ何をッ」
『ッは、ハァッ、ぁ、』
呼吸を整え、刀を構える。
雛鶴はいない。もう既に避難したのか。なら、もう何をするにも恐れなくていい。
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作者名：諒 | 作成日時：2020年12月22日 19時
