【歌い手】モブ子の見ている日常 2 【実況者】

練習 ページ23

文化祭の作業も一段落した頃、いよいよ体育祭の練習が始まる。今日はその、記念すべき第一回目だ。


『えー、種目毎に練習をしてもらいますが、怪我をしないことを重視でお願いします』


怪我をしたら、元も子もない。代役を考えなければならない。これ以上仕事が増えてしまうのは御免だ。

今考えると、借り物競争はどんな練習をするのだろうか。まぁ、自分の担当じゃないからいいか。


天「何突っ立てんの。早く始めるよ」

『あ、はい』


手馴れたように、互いの足に紐を結んでいく。私が左に並ぶのか。


天「俺がせーのって言ったら、左を出してよ」

『いや、お互いが左を出したら……』

天「せーの！」

『うわっ』


案の定転んでしまった。それもそうだ。お互いの違う足を出さなければならないのに、同じ足を出してしまっているのだから。


天「痛った……。ちょっ、大丈夫？」

『平気です』


念の為、長ズボンを履いといて良かった。それに、こいつも一様人の心配は出来るんだな。


天「ほら、手」

『え』

天「手貸してあげるから」


ここまで出来るとは……なかなかやるな。意外とデキる男だと感心する。これなら、調子よく練習出来るのでは。


天「もう１回行くからね。今度は自分の足の内側を出してよ」

『わかりました』

天「せーの！」


1、2と掛け声をしながら駆ける。1組が走るのはトラック1周。距離にすると、200mはある。障害物が無い分、1周は走れという事だろう。

運動をしない私にとっては、体力が持たない。いくら初日の練習だからといって、天宮翔太はここを一気に完走する気だろうか。

ダメだ。足が痛いし、単純に疲れた。こいつの1歩と私の1歩じゃ幅が違い過ぎるため、余計にこちらが疲れる。


『あ、あの、1回止まりませんか』

天「わかった」

『え』


気付けば私は転んでいた。おい、急に止まる奴がいるか。せめて転ぶなら私だけじゃなくて、天宮翔太も転べよ。

振り向くと、天宮翔太はこちらを見てニヤニヤしていた。こいつ、サイコパスかよ……

阿呆→←＊

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