62.「本当に好きだったよ」 ページ16
HC side
今から人を傷つける話をするんだと思うと気が重くて仕方がない。
俺は真面目な話を出来るだけしたくないタイプだ。もちろん真面目に話さなきゃいけないときはちゃんとやるけど。そういう場面にならないように出来るだけ気を遣って、空気を読んで上手く立ち回ってきたつもりだ。
したくないけど、しなくちゃいけない。
自分の気持ちから逃げ回るのはもうやめると決めたから。
深呼吸をして教室の扉を開く。
先に着いて窓際の席に座った彼女は差し込む夕日の逆光で表情が見えない。
「遅くなってごめん」と言いながら彼女の机の前に座る。
顔を見たら決心が鈍りそうで、視線が自分の手元へと落ちていく。
校庭からは部活動をする生徒の声が聞こえてきて、廊下からは誰かの話し声が聞こえるのに、
この教室は水の中に入ったように何の音もしない。
HC「ごめん、別れてほしい」
「どうして？私何かした？」
HC「なにもしてないし、何も悪くないよ」
「じゃあどうして？」
HC「…ごめん」
彼女がまっすぐにこっちを見ているのが分かるのに、視線を合わすことが出来なかった。
こんな時に思い出すことじゃないんだけど、
そういえば俺はこの子が泣いた顔を見たことがなかった。
彼女が酷く穏やかな声で俺の名前を呼ぶから、反射で顔をあげて視線が交じり合う。
「………やっぱりAちゃんのことが好きなの？」
HC「どうして、？」
「それくらい分かるよ、だって私ずっとドンヒョクのこと見てたんだもん」
HC「ごめん、」
「謝らないでよ」
HC「でも、本当に好きだったよ」
「最後の最後で、そんなこと言うなんてずるいね」
そう言って無理矢理に作った笑顔でさえも綺麗だと思った。
好きだったよ。ちゃんと大切だった。信じられないかもしれないけど、本当だよ。綺麗に綻ぶ表情も、恐る恐る俺に触れる指先も、長い真っ直ぐな髪も、俺の目を見て話すところも、いつの間にか愛おしいと思うようになった。ずっと笑っててほしいと思ったし、泣いてほしくないと思った。
でもごめんね。結局君を悲しませてしまった。
俺が笑わせてあげたいのも、この手で幸せにしたいのも、
君じゃなかった。
ずっとずっと心の真ん中にいたのはAだけだったんだ。
気付くのが遅くてごめんね。
立ち去る後ろ姿を眺めながら、
こんな時にも「ドンちゃんのばか」と笑うAの顔が浮かぶんだ。
.
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ロク(プロフ) - ゆさん» 返信出来ておらず申し訳ありません…😭完結したので最後まで読んでいただけてたら嬉しいです🥺 (4月16日 3時) (
レス) id: c303f509b7 (このIDを非表示/違反報告)
ゆ - いつも陰ながら楽しませていただいてます！今回のお話もたくさんキュンキュンしました~^^これからも応援しています！ (2023年3月16日 9時) (レス) id: a3a66f07ac (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ロク | 作成日時：2022年7月18日 9時
