45.「好きだけど」 ページ45
HC side
今日からまただるい学校生活が始まる。
クーラーの効いた部屋から出るのが億劫で、家を出るのがいつもより遅くなってしまった。
夏休みは終わったというのに夏の暑さは終わる兆しを見せない。
白い半そでのシャツから伸びる腕は、相変わらずの褐色で、それが夏休みが充実していたと表しているようで、
全然そんなことなかったのにと反論したくなる。
だって今年は海も行けなかったし。
玄関を出たところで少し先を歩くAの後ろ姿が見えた。
一緒に行かなくなってからは俺は１本か２本早い電車に乗るようにしていたからなんだか少し懐かしく感じる後ろ姿を眺めながら歩く。
Aは俺よりも歩くのが遅いから距離は縮まるばかりで、
このまま黙って追い越すのはさすがに酷だと思った。
「はよ」
『、おはよう』
「なんで気まずい顔すんの」
『ご、ごめん』
今までそんなことを思ったことなかったのに、
横に並んだ小さい肩がどうも居心地が悪い。
Aはこんなふうにポツリポツリと小さい声で話してたっけ。
ああ、俺がそうさせてるのか。
白い肌は海に行ってきたとは思えないほどで、相変わらずすぐに倒れそうだなと、上から見下ろすと一つ違和感を見つけた。
「髪染めたの？」
『うん、夏休み中に』
「ふうん」
太陽の光に照らされた髪の毛がつやつやと輝いていて、
当たり前に触れようと手を伸ばせば
Aは一歩後ろに下がってそれを避けた。
触れることなく空を切って行き場もなく彷徨ったその手で、そのまま自分の頭にぐしゃぐしゃと触れた。
なんで避けんだよ。
「なんでその色にしたの？」
『え、変？』
「いや？」
『ジェミンがこの色が似合うって言ったから』
「へージェミンに言われて染めたんだ」
『そ、そういうわけじゃないけど』
暑さが肌に纏わりついてくるようでいらいらする。
夏は好きだけど、暑いのは嫌い。
Aのことは好きだけど、そういう好きじゃない。
言い訳じみた言葉が頭の中をぐるぐると回り、
今まで通り普通に話したいのに、分からなくなる。
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作者名：ロク | 作成日時：2022年5月8日 2時
