38.「二人だけの秘密」 ページ38
JN side
さっきから何回着替えたのか分からない。
どれを着ても似合ってない気がして、あーでもないこーでもないを繰り返しているうちにベッドの上には服の山が出来てしまった。
水族館に行かない？と連絡をすれば、
すぐに、行きたい！と返事が来て
新しい服を買おうか美容院に行こうか悩んでいるうちに、いつの間にか当日になった。
みんなで出掛けたり、二人で通学することはあっても、
二人で出掛けるのも、
そもそも休日に二人で会うのも初めてだった。
Aは何色の服を着てくるんだろう。
この前は小さい柄のワンピースだったし、でもその前はストライプのシャツも着ていた気がする。
あんまり気合いが入っていると思われるのもちょっとなあ。
考えても答えは出なくて、家を出る時間にセットしたアラームが鳴って、遅刻だけは絶対にしたくなくて急いで家を出た。
結局お気に入りの白いTシャツにスキニーになってしまったけど、Aはシンプルな服装が好きだと言っていたからまあいいでしょ。
『おまたせ』
「全然待ってないよ」
『ジェノはいつも時間より早いね』
「Aを待たせたくないからね」
『さすがモテる男は違いますね』
「なにそれ」
待ち合わせ時間ちょうどに来たAは白いブラウスにデニム姿だった。
「お揃いみたいだね」と言うAに
「嫌だった？」と聞いてみると心底不思議そうな顔をして「なんで？」と聞いてくるから、
上手く言葉を返すことが出来なかった。
行こっかと歩き出すAの後ろ姿がご機嫌そうに弾み、なんだかとても嬉しくて自分の足取りも軽く宙に浮いていくようだ。
水族館に着いてきょろきょろと歩きまわり、
一際大きな水槽を熱心に見上げる。
青いライトがキラキラとAの瞳を照らして
それが宝石みたいに見えた。
「おもしろい？」
『マグロって止まると死んじゃうんだって。マク先輩みたいだよね』
「それマクヒョンが聞いたら怒ると思う」
『じゃあ二人だけの秘密ね』
きっとAにとって大した意味もない軽い言葉が胸を貫く。
Aの言葉一つで鼓動は速度を増し、ふいに見せる表情一つで心臓は止まる。
そんな俺の気持ちをAは知らないし、
知らなくていいと思うのに、
時々こんな俺の気持ちを知ってほしいとも思う。
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作者名：ロク | 作成日時：2022年5月8日 2時
