29.「俺には何も言ってくれない」 ページ29
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アラームもかけずに眠ったせいで起きたらもうお昼の時間も過ぎていた。
閉め切ったカーテンの隙間から太陽の光が差し込んで部屋に光の線を引いている。
おなかが空いている気がするけど、まだ動くになれずに天井を眺めながら外から聞こえる音に耳を傾ける。
ここ最近は感情が忙しくて、こうしてゆっくりする時間もなかったように思う。
頭の中に浮かんでくるのは、いつもあったドンちゃんの甲高い笑い声ではなくて、
ジェミンの低い声だったり、ジェノの拗ねたような表情や、ロンジュンの不器用な手の温もりだった。
時間が経つと分からなくなる。
ジェミンに抱きしめられた時にうるさかった鼓動の意味も、ロンジュンが隣にいる時のホッとするような感覚も、ジェノに好きな子がいると言われた時の怒りに似た焦りの正体も。
宝物だと思っていたドンちゃんへの恋心さえも。
ぐるぐると忙しなく回る頭を遮るように、枕元に置いたスマホがメッセージが届いたことを知らせる。
RJ何してんの?
RJてか起きてる?
起きてる
なんもしてない
RJ家行ってもいい?
いいよ
返事をして数十分後にロンジュンが家に来た。
こうしてロンジュンが一人で家に来るのは前に早退した日以来だった。
何か用があるのかと思ったらそういうわけでもないらしい。
「どうせ起きたばっかりだろ？」と手渡してきた袋の中には私が好きなものばかりが入っていた。
「ロンちゃんありがと！」と言えば、鬱陶しそうな顔で「ロンちゃんって呼ぶな」と返された。
もう！ロンちゃんったらツンデレなんだから！
「最近どうなの」
『どうって？いつも一緒にいるから知ってるでしょ』
「いや、知らない」
『なんでよ』
「Aは大事なこと俺には何も言ってくれないじゃん」
『……そうかな』
咎めるような口調で言葉を発するロンジュンが私を見つめる瞳には見覚えがあった。
いや、見覚えがあるという表現はちょっと違うのかもしれない。
縋るとも言えない、求めるとも違う、でも燃えるような、
それは私がドンちゃんに向けていたものと同じものだった。
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作者名：ロク | 作成日時：2022年5月8日 2時
