終業の時間・1学期(4) ページ13
理事長室から出ると、部屋の前には学秀が待っていた。
「どうせ、理事長の誘いは断ったんだろう？」
『もちろん。てか、ありがと』
「？何がだ？僕は何もしていない」
『私の意思を尊重するってはっきりと言ってくれて！』
「べ、別に君のためを思っていったことじゃないさ。どこにいようと自分がトップに立つだけだからな」
なんて素直になれない学秀の不器用さに大笑いをしてしまう。
いや、ここまで来ると全部が本心なんだろうな。
中学生がここまで自分の意思を持てるのは本当に凄い。学秀のそういうところが嫌いになれないし、すごく好きだ。
なんて言ってると、下駄箱が見える。
2人で靴を履き替えて校舎から出る。
『あ、友達待ってるから先に行くね』
と言って、学秀を置いていこうと歩き出すと、腕を掴まれる。
「ちょっと待ってくれ！
A…今年で中学生最後の夏休みは終わる。
海にでも行って、特別な思い出を作らないか？」
学秀のその目。真剣そうで、でも今にも崩れそうな愛おしそうな、そんな目。
私のこと、諦めてないんだな。苦しそうだ。
『あ…えっと…』
「…"友達"として2人で行きたい。だめか？」
腕を掴む力が少し弱まる。
すごく切なそうなその姿に私の胸も苦しくなる。
すると、グイッと急に引っ張られる。
「ごめんね浅野くん。こいつ、とっくに俺のだからもう諦めてくんない？」
「赤羽…」
『カルマ』
気付けば私は、カルマの体に自身の背中を任せていた。
そして、スルッと背中側から腕が伸びてきたかと思えば、腕は前で組まれる。
そして、耳元でカルマは言う。
「Aも。一度でも自分に好意寄せてた男は簡単に信じちゃだめだよ。じゃ、俺ら帰るから」
離れたかと思えば、即座に右手を攫う君。
悔しそうに顔を歪ませる学秀を私は見て見ぬふりしたかった。
『学秀！私、今日はカルマと帰るね！
お誘いありがとー！今度飯でも軽く行こーね』
その言葉に、学秀の表情は明るくなり、カルマは呆れた顔をしていた。
「A。そういう優しいとこ、嫌いじゃないけど心配だよ」
『あはは、ごめん…1回きりにします』
「ん…約束だからね」
少し機嫌の悪そうなカルマは、絶対に私の手を離すことはなかった。
それより…
『カルマ、気付いてた？』
「何が？」
『殺せんせー、木に紛れてずっと私ら3人の様子見てたよ』
「…っのタコ。殺してやる」
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作者名：れれれ | 作成日時：2023年12月9日 19時
