終業の時間・1学期(3) ページ12
「…浅野くんから聞いているよ。最近は喫煙と飲酒を控えていると」
『まぁ…それは事実ではあります』
「浅野くんはどう思う？」
「はい？」
チラチラ私達の会話に組み込まれる学秀。
なんというか、巻き添えを食らっているように見えて可哀想だ。
「雪目くんは、A組にふさわしい生徒だと思わないか？」
「学力は申し分ないです。素行不良さえ直れば…と、僕もずっと思ってはいました。
ですが、彼女にその意思が無いのなら無理に戻す必要はないと思います。
A組のトップも、学校のトップも僕が牛耳るだけですから。」
余裕そうな笑みを浮かべながら、学秀はその言葉を放つと理事長の目の色は一段と深くなった。
「そうか…君は下がりなさい。浅野くん」
そう告げると、不思議そうな顔で学秀は部屋を出る。
「はは、浅野くんは君に色恋をしていたんだがね。
あの子がいれば君の心も変わるかと思ったが、そうもいかないみたいだ」
『学秀の気持ち…知ってたんですね』
「父親なんてそういうものだ」
そう言って、椅子ごとグルっと回し、私に背を向ける理事長。
「どうして、そこまでE組にこだわる？」
『どうしてって…シンプルに楽しいからです。
特に勉強面や人柄でそう強く感じています』
「ほう…」
『本校舎の先生が悪いとは言いません。いい意味で本校舎の学習はペースが早く、分かりやすい。そして皆の進度が一緒です。
だからこそ、勉強の"できない"私はもう少しゆっくりペースを落としたかった、あのままの勉強法じゃ理解できなくて楽しくない、というのが一番だったんです』
その言葉に驚いたかのように、私に体を半分向ける理事長。
まあ、総合点満点の女が勉強できないって自負しているんだ、私の努力なんて見ず知らずの理事長だ。仕方がない。
『そして、学生生活を楽しめる仲間がいること。これは大きいです。
本校舎の生徒を嫌いとは思いませんでしたが、皆が己に厳しすぎる、真面目すぎるっていうのは私に合わないんです。
だから、私の成績がいいのも素行不良が治りつつあるのは、E組にいるからなんです。
なので、絶対にこのクラスを出たくないです』
"殺せんせーのことも、ボロっと本校舎で言っちゃいそうで怖いですし"なんて溢してみれば、理事長もくすり、と笑った。
「もういい下がりなさい。時間をありがとう」
その一言に私は理事長室を出た。
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作者名：れれれ | 作成日時：2023年12月9日 19時
