ぱ ら れ る 。【ツイステ】

狼くんと勘違い ページ8

.自分がヒロイン系女監


　その生徒は人狼である。

　同寮の後輩、ジャック・ハウルのような狼の獣人ではなく、神話の時代から細々血を繋いできた「原始種」。普段の見た目は狼獣人と変わらないが、満月の晩に完全な狼に変身して我を失い人を襲撃する...古代において、忌み嫌われた種族だ。

　だが現在、魔法医療の技術が発達し、満月の晩でも人を見境なく攻撃することの無くなる薬が...所謂、「脱狼薬」とでも言うべきか。が、開発され、一部の地域で偏見は残るものの、健やかに生きられるようになった。

　よって、その少年はこうして他のヒトと同じようにNRCに通えている。


「よーっす、隣良いだろ？」
『...おん。いいぜ、座れや。』
「あー腹減ったァ。おら肉だ肉ゥ！」

　昼間の食堂で、少年は食事を取ることもなく突っ伏していた。時折コーンスープを口に運んではいるものの、まだ半分以上残っている。いつもならカップに直で口をつけて三口で飲み干すのに、いったいどういうことだろうか。

　いや、その質問の答えは少年から話される必要もなく、友人は把握しているのだが。

「なるほど分かったぞ。''月のモノ''が近ぇんだな？」
『チッ、デリカシーって言葉知らねぇのかよ。これだから獣人は。』
「あ''ァ！？」

　明らかに軽蔑含んだ言い草にカッと怒りが這い上がったが、少年の顔がいつもより青白いのと、いつにもまして元気が無さすぎる様子を見れば、その気持ちは日の経った風船のように萎んでいった。

「...オイ、休暇いつからだよ。」
『明日。ノートよろしくな。』

　いくら薬を飲んでいたとしても、満月前後の体調不良が薄れるほど、医療は発展していなかった。なにしろ人狼は希少種。開発の優先順位は他の病気の薬より劣ってしまうのは仕方のないことだ。

　そのため、少年は満月の夜を挟んだ1週間は休暇を申請していて、学園側もそれを喜んで承認していた。差別はなくなったとは言え、満月近くの人狼は怖いとの深層心理があるのだろう。理性を失っている、自分より力の強い生き物を恐れるのは当たり前のことだし、その点に関しては少年も納得していた。

　だから少年の友人は、少年の小さな問題を揶揄い混じりに「月のモノ」と評していた。

　月に1週間ほど悪くなる体調、過敏になる神経。少年が自分の体質について全くネガティブに感じていなかったのも、それに拍車をかけた。

　...故に、勘違いが起きたのだ。


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