171.砂漠の魔術師と王 ページ2
「は、...転入？」
入学して2ヶ月ほど過ぎた頃、昼休みの彼のスマホに着信があった。
父は電子機器を信用していないから、母か妹か...と思っていたが、メールの送り主は憎らしい我が主だった。
折角ストレスフリーの自由(期限は4年)を過ごしていたというのに何なんだと眉間にシワを寄せながら開く。
ジャミルの自由が終わりを告げた瞬間であった。
さよなら、お前はいいヤツだったよ...
と、去り行く自由を見送った。
「チッ...！」
あの能天気野郎が、この学園に？
どうせ寄付でもしたんだろう。
汚い奴らだ。
湧いてきた苛立ちと虚しさのやり場に迷った挙げ句、ジャミルは側の廊下の壁を蹴りつけた。
お気に入りの臙脂のスニーカーは痛みを緩和させてくれるわけもなく、爪先にジンジンと鈍い痛みが広がる。
壁は凹んでいた。
もし彼のクラスメイトがその光景を見ていたならば、カリムからの一時的な解放で精神的に穏やかだった彼の変貌に驚くことだろう。
『...校舎の破壊は校則違反だ、バイパー君。』
「！...生徒会長。」
誰も居なかったはずの廊下に、いつの間にかアルタイルが居て、ジャミルは少し表情を固くした。
彼の5cmヒールの音はカーペットに吸収され、気づかなかったのだ。
顎を上げて尊大とも取れる態度で見下ろしてくるアルタイルは圧迫感を感じさせた。
『...何かあったのか？』
「いえ、あなたのお耳に入れることは何も。」
『そう。なら、結構。』
立ち尽くすジャミルを一瞥して、アルタイルは壁に手を翳した。
光に包まれた後、何事もなかったかのような顔をしている壁に、目の前の人の魔法力の高さを思い知る。
綺麗な魔法だった。
「あ、の...」
『ああ、そうだ。』
優秀な人への好奇心で呼び掛けたジャミルを遮って、立ち去りかけていたアルタイルは振り返る。
襟足辺りまである目に毒な明るい水色の髪が揺れた。
ピンと伸ばされた背筋で、氷のように削ぎ落とされた無表情は変わることなく、色の薄い唇が言葉を紡ぐ。
『従者には従者の、主人には主人の苦労がある。』
自分だけが不幸とは思うな。
つまりアルタイルはそういうことを言いたかったのだろうと今になってようやく理解した。
だがその時のジャミルは、負の感情に呑まれていたジャミルは、''お前の苦労などつまらないものだ''と言われているように受け取ってしまった。
王には俺らの気持ちなんて分かりゃしないさ。
ジャミルは苛立ちを通り越して投げやりにそう思った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2241人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ツイステ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
猫やぎのサブ(プロフ) - コメント失礼します！陽炎さんの作品とっても大好きです！アルタイル様のイメソン‥「1000年生きてる」如何でしょう、、 (1月7日 11時) (
レス) id: 497823dae0 (このIDを非表示/違反報告)
シキ(プロフ) - もうコメントするの遅すぎたと思いますが…｢The Beast｣いいと思います！！ (2023年1月16日 22時) (レス) @page29 id: f878b3efd0 (このIDを非表示/違反報告)
あなたの心にAmazing - アルタイル様は...私的にピッタリだなぁって思ったのが、まふまふさんの「空腹」です。胃というところで共通点があるのと、歌詞にも「愛を知らない」、「化け物」というワードが出てきたり...他にもアルタイル様と重なる歌詞がたくさんです。いい曲ですよ！ (2022年12月24日 22時) (レス) @page29 id: 4aeec97b35 (このIDを非表示/違反報告)
スミィス - アルタイル様は「オレンジ」って曲、どうでしょうか…大好きです！！ (2022年11月9日 18時) (レス) id: f06ecf8049 (このIDを非表示/違反報告)
莉緒(プロフ) - 初コメ失礼します！！アルタイル様ガチ勢です！！アルタイル君世界で一番愛してる自信あります！！アルタイル様のイメソンで、まふまふ様の「廃墟の国のアリス」とかはどうでしょう､､､？ (2022年9月18日 19時) (レス) @page29 id: f2671d43ca (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：陽炎 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Kagerouhp/
作成日時：2022年2月10日 22時
