P−26◆「試験的導入」 ページ29
.
「さぁさぁ、他の寮長の皆さんもそれぞれの寮へ──」
「いやあのっ、学園長……?」
「? 何か?」
ディアソムニア寮の新入生達が老人口調の男に付いて鏡の間を後にする中、クロウリーのすぐ近くにいた新入生が、いかにも勇気を振り絞って……というような感じで声を絞り出す。
彼の視線を思い切りその身に感じて、Aは嫌な予感に耐えきれずに軽く天を仰いだ。
「その子についての説明、欲しいんですけど……」
──やっぱりそうだよね〜……。
当然だ。マレウス・ドラコニアやらグリムやらで一瞬流されそうになったが、そんなに容易く生徒達の注目をかわせるような話題ではない。
自分だって、女子校の入学式に男子が混ざっていたら何もかもが分からなくなるだろうな──他人事な感じでそう考えながら、Aが遠い目になる。
「なっ……連絡先でも教えろと!?」
「いやまぁそれも知りたいですけど」
Aが思わず心の中で「ちょっとちょっと」と両者にツッコミを入れる。下手に口を開いては更なる困難を招いてしまうような気がして、沈黙を破ることはなかったが。
──いやでも、クロウリーの説明の方が余計に場を掻き乱すのでは……?
冷静に考え直したAが、とりあえず何か言おうと口を開きかける。が。それは本日幾度目かのクロウリーの咳払いによって遮られた。
「えー、ごほん! 言うなれば、『試験的女子生徒の導入』というやつです!」
「試験的……」
「女子の導入……?」
そんなの聞いてないけど、と新入生達が途端にまたざわつき始める。ちらちらとこちらを見てくる視線が居た堪れない。
自分の父がどう続けるつもりなのか、Aはハラハラしながら彼の方を見た。
「より多くの優秀な魔法士を生み出し世に送り出すため、男子だけと言わず女子からも魔法士の卵を──」
「ならもっと多く入れてみても良いんじゃ」
「徐々に増やすんですよ!! 試験的に!!」
──怒鳴り始めちゃった……だめかも……。
いよいよ黙りっぱなしでいるわけにはいかなくなってきたかもしれない。Aが覚悟を決めて口をきゅっと結ぶ。
しかし、何と言えば場を一旦でいいから収めることができるだろう? よろしくお願いします、と頭でも下げてみようか──困り顔をあらわにしながら、Aがそう考え始めた時。
「チッ、ごちゃごちゃと面倒くせえ……そこのチビがこの学園に入るのはもう決定事項だろうが。草食動物どもが喚いたところで何か変わるのか?」
サバナクロー寮長の気怠げな声が、鏡の間に低く響いた。
P−27◆非日常は日常へ→←P−25◆“マレウス・ドラコニア”
644人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ヒメアミ(プロフ) - もちうさぎさん» お話が進んだりユニーク魔法とかがお披露目になったりすると多分速攻でバレる(?)と思うんですけど、一応某塔の上のプリンセスを元ネタにしてます……!😌 (2023年4月9日 14時) (レス) id: 773d896b8c (このIDを非表示/違反報告)
もちうさぎ - 夢主ちゃんのモデルって誰ですか! (2023年4月9日 5時) (レス) id: c2ca67a91e (このIDを非表示/違反報告)
ヒメアミ(プロフ) - ゆあさん» マジですか何よりでございますわ!!🥰彼にはただのマブで終わらず頑張ってほしいですね(誰目線?) (2023年4月7日 17時) (レス) id: 773d896b8c (このIDを非表示/違反報告)
ゆあ(プロフ) - もう今回も最高でございましたわ!エースと仲良くなっちゃって!そのままくっつけー!!という願望 (2023年4月6日 22時) (レス) @page20 id: ce509c1850 (このIDを非表示/違反報告)
ヒメアミ(プロフ) - ゆあさん» コメントありがとうございます!! 続け方には気を付けてるのでそう言っていただけて何よりです〜〜😭 頑張ります!!💪🏻 (2023年4月4日 12時) (レス) id: 773d896b8c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ