P−8◆決意を言葉にして ページ11
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まずは談話室から見てもらおう、とゴースト達に手を引かれ背中を押されるままに、Aは音を立てて軋む廊下を少し不安になりながらも渡って、彼らの言う「談話室」に足を踏み入れた。
一通りの内装が目に入った瞬間、Aは気付けば意味なく「わ〜……」と漏らしていた。これからのここでの楽しい楽しい新生活に心躍らせながら発した声ではない。むしろその逆だった。
全体的に、強盗の一味にでも荒らされたんじゃないかと思うほどの荒れっぷりである。
壁紙はところどころ剥がれ落ち、壁に掛けられたいくつかの肖像画もずれたり落ちたりしてしまっていた。
原因が何かもよく分からないしみが付いた暖炉には蜘蛛の巣が張っている。使いたくない。ソファーのシーツも埃まみれだ。座りたくない。
木のテーブルはひっくり返り、その近くに倒れている椅子にはこれまた蜘蛛の巣。
ようやく高校生になろうかという少女がウキウキの新生活を謳歌するには少し──いやかなり、凄く、ハードルが高すぎる部屋だ。人目を忍ぶ指名手配犯とかならまだしも、Aには特に埃に塗れて暮らす理由は無い。
「……なるほど、ね……」
何が「なるほど」なのかは自分でもよく分かっていない。
しかし、Aとしてはこの有り様を見た感想を絶句で終わらせたくなかった。沈黙は気まずい。
「他の部屋も見るかい?」
「……大体こんな感じ?」
「こんな感じだね」
「……そっか、今はいいかな」
色んな部屋を見せられても、要領を得ない感想しか言えないのは分かりきっていた。
どこからどう手をつけよう、そんな自問がAの頭の中をぐるぐる回る。
「どこから始める?」
「う〜ん……とりあえず廊下かな。毎日絶対通るし」
「そうだな!」
「いいプランだ」
掃除の最中や寮生活で、心の中の自分と会話しなくても寂しさを紛らわせるようになったのはかなりありがたかった。そしてシンプルにゴースト達が優しい。
「逆に考えれば、掃除しがいがあって楽しいし……うん、そう! 私お掃除は得意だし! 絶対サマーホリデーの内に、ここを住めるような場所にしてみせる!!」
そう、固く揺るがない決意を口にする。
その意気だ! 頑張ろう! と周りで鼓舞してくれるゴースト達に、Aは「うん!!」と大きく頷いてピースサインを向けた。
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ヒメアミ(プロフ) - もちうさぎさん» お話が進んだりユニーク魔法とかがお披露目になったりすると多分速攻でバレる(?)と思うんですけど、一応某塔の上のプリンセスを元ネタにしてます……!😌 (2023年4月9日 14時) (レス) id: 773d896b8c (このIDを非表示/違反報告)
もちうさぎ - 夢主ちゃんのモデルって誰ですか! (2023年4月9日 5時) (レス) id: c2ca67a91e (このIDを非表示/違反報告)
ヒメアミ(プロフ) - ゆあさん» マジですか何よりでございますわ!!🥰彼にはただのマブで終わらず頑張ってほしいですね(誰目線?) (2023年4月7日 17時) (レス) id: 773d896b8c (このIDを非表示/違反報告)
ゆあ(プロフ) - もう今回も最高でございましたわ!エースと仲良くなっちゃって!そのままくっつけー!!という願望 (2023年4月6日 22時) (レス) @page20 id: ce509c1850 (このIDを非表示/違反報告)
ヒメアミ(プロフ) - ゆあさん» コメントありがとうございます!! 続け方には気を付けてるのでそう言っていただけて何よりです〜〜😭 頑張ります!!💪🏻 (2023年4月4日 12時) (レス) id: 773d896b8c (このIDを非表示/違反報告)
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