トレイとリドルが演じる話 ページ18
T.C
「……今日は来るかな、あの子」
ぽつりと呟いて、いつものように森の中を歩く。勝手知ったるこの森は、もう俺の庭のようなもの。……まぁ、ようなものではなく大きく言えば家なのだけど。
辺りに生えている木の実や野草などを取っていれば、俺の耳は森の入り口に誰かが来た音を聞き取る。ガサガサと鳴る葉っぱの音と、枝を踏む足音。……あの子だ。
意図せず耳がピンと立って、尻尾がゆっくりと揺れる。相変わらず身体は正直だなと、思わず苦笑が漏れた。
俺は急いで立ち上がって、近くの木陰に隠れた。……あの子と出会ってはいけないから。
あの子の目的は、森を抜けた先にあるお婆さんの家。体調が悪いお婆さんのお見舞いに行くらしく、三日に一回ほど森の中を通る。その時には必ず、この道を通っていた。
「……来た」
ものの数分足らずで、あの子はここに来た。さっきまで俺がいた辺りを通って、森の出口へ向かう。
鬱蒼と生い茂る木の隙間から、鮮やかな赤色がチラリと見えた。ふわりと香ってくるのは、お婆さんへのお見舞いだろうか。
綺麗な赤い髪と黒い目。可愛らしい顔立ちの、女の子。少し気の強そうな顔をしているけど、本当は優しい子だって知っている。
何か小さな声で鼻歌を歌いながら、あの子はゆっくりと歩く。良いことでもあったのか、幸せそうに顔が綻んでいた。なんだか俺まで幸せになってくる。
あの子が道を抜けるのを見届けて、俺は木陰を出る。一目でも見れたことが嬉しくて、心臓がどくどくと音を立てた。
「……もう帰ろう」
行きはいつもこの時間だけど、帰りの時間はバラバラだ。不意に眠ったりして、もし出会ってしまったら。……背筋が、凍るような思いがした。
俺とあの子が出会えば、物語が始まってしまう。だからそうならないように。俺はわざと、あの子に会わないようにしていた。
会いたくない、なんて言うのは嘘になる。会いたいし、触れたいし、話したい。だけど、あの子と俺が出会ってしまえばそれが終わりだから。
どんなに残酷だって叫んでも、最低だって吠えても。運命は決して変わることがないから。
どうして俺は狼なんだと、自身の手のひらを見つめた。……早く戻ろう。
俺は近くに生えていた綺麗な花を何本か丁寧に抜いて、道に置いておく。気付いてくれるかなと期待して、そのまま森の奥深くへと帰った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 715人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
莉音 - リクエストよろしくお願いします！！ オクタでMafiaをマフィアっぽくやっていただけると嬉しいです。お願いします！！ (8月15日 15時) (
レス) @page4 id: d629310a98 (このIDを非表示/違反報告)
菜々美(プロフ) - リクエストいいですか？イグニハイド寮で、プロセカをプレイしてほしいですね！ (2023年5月2日 1時) (レス) id: 4d3d2a834d (このIDを非表示/違反報告)
蒼(プロフ) - レオナさんが贖罪をｯｯｯｯちょっと発狂しながら踊り狂ってきます(((( (2023年2月27日 23時) (レス) @page31 id: 699f0917a9 (このIDを非表示/違反報告)
Ray - ロ/メ/オなんでイデアとシルバーなんだ？と一瞬考えたけどそういう事か！つまり声y((殴 (2022年8月16日 2時) (レス) id: aecf2fd8ab (このIDを非表示/違反報告)
宇琉夜ハル(プロフ) - キャラは思いつかないので主さんが決めてください！ (2022年5月8日 11時) (レス) @page4 id: c64b9591b6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：チーズ鍋 | 作成日時：2021年10月24日 17時
