二ノ四 ページ11
高尚な身分のお二方。
魔獣が襲って来ないとも限らない、とディア殿は某を守るという名目で共をつけて下さったが、こうなっては話は別で、某が命をかけてでもお守りせねばなるまい。
「あまり、某から離れずに」
そう告げると、お二方は興味深そうに感嘆の声を上げられた。
夢幻のように美しき森の中を歩む。
ピチチと鳴いた薄紅色の鳥が頭上を翔け、その羽根の艶やかさに魅入ってしまいそうだ。
「まことや……」
そういえば、と鳥の行く末を見守った某は声を上げた。
「魔獣なるもの、並の獣ではあるまい」
「ああそうだな」
「見分ける術などは」
「ある。といっても魔素を感じ取るのが手っ取り早い。気付いたら俺が教えてやるよ」
「感謝致す」
心優しきかな、ありがたきお申し出に某は微笑みを溢す。
「そうだ、ヒトの子。魔獣の従える方法も教えてやろう」
「おお……なんたる失念。ありがたい」
「大きく分けて二通りある。力を示す方法と、懐かせる方法だ。後者は時間がかかりすぎるからこの場合は前者が良いだろう」
「力を示す……」
「魔法で魔獣を倒すのだ。とはいえ、お前は魔法を使えない。僕たちが手助けしてやろう」
一から十までお教え下さり、その上、直々に手まで貸していただけるとは。恐悦至極に存じる。
お二方の余裕そうな風体に何があってもどうにか切り抜けられそうな心強さを感ずるが、しかしこの試練は我に課せられた越えるべき壁である。叶うのであれば、某一人の力で成果を上げたい所存。
お二方のご厚意を無下にするわけにもいかぬ故、その思いは口にせぬのが貴人のため。黙して静かに、綿足袋で足音も立てぬ影のような某であったが、
「……ん、っくしゅ」
光満ちぬ森というものは気温が低く、最大の弱点である寒さが某を苦しめる。
早い段階でのくしゃみ、こごえる指先、そして最後に身体の震え。特に冬、野外の活動が多いシノビとして使い物にならない某は、屈辱的なことに忍軍屋敷の番を務めていたのだ。掃除、洗濯、料理など仕事を挙げればきりがない。同胞の「ただいま帰った」の声を思い出すだけで腹が立つ。
「寒いか? 僕の上着を貸そう」
「め、滅相もない……!」
「テメェのトカゲ臭え上着は嫌だとさ」
「何をおっしゃる。とても上品な香りがする。しかし某は従僕の身。この程度の寒さ、己でなんとかしよう」
お手を煩わしてなるものか。
某はだいぶ冷えた指先に息を吹き掛け擦り合わせた。
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IDee(プロフ) - 五月雨さん» コメントありがとうございます! 最近は更新を滞らせていたのですが、大変励みになりました。時間を見つけ次第更新していきたいと思います〜! (5月24日 21時) (レス) id: af1699faf6 (このIDを非表示/違反報告)
五月雨 - 面白い!!更新楽しみにしてます!! (5月24日 19時) (レス) @page24 id: 301607acc2 (このIDを非表示/違反報告)
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