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エーミールの着席後
トントンが他に何かある人は?と訊ねたときに、のほほんとした返事をした人物がいた
「ん、しんぺい神」
名前を呼ばれた彼はカルテを持ちながらゆったりと席を立って、アルの怪我についての説明を口にする
その口調は至って淡々としたものだが、医者としてなのか、どこか同情のような悲しげな感情が見え隠れしていた
「とりあえず、骨は折れてたりはしてなかった。
……けど、前の主人から受けたであろう傷は適切な処置がなされないまま放置されとったし、
お風呂に入れたけど、やっぱりシャンプーとかは全然できへんって感じやね」
しんぺい神のその発言に対して、幾名かがどよめきの声を出して
その内の一人があまりにもデカすぎる声で驚愕した
「えっ!?ペ神おまっ、男と風呂入ったんか!?」
ガタン、と椅子を倒しながら勢いよく立ち上がったのは背の低い、ロボロである
面越しでも分かるほどに顔を青くさせ「そいつ大丈夫かよ……」と心配していた
しかし、反応をしすぎたのがよくなかった
「安心しぃ、アルには手ぇ出しとらんよ
やから、明日は一緒に風呂入ろうか。なぁ、ロボロ?」
いつの間にか背後にいたしんぺい神によって両肩を掴まれて、ロボロは一人で阿鼻叫喚している
「お前ら助けろよ!」と周りに窮地を脱する方法を求めるが、巻き込まれたくないため皆全員がそっぽを向いて目をそらしていた
「おめぇら心無いんけぇ!?」
しんぺい神はロボロが倒した椅子を戻した後、
最後に再度念を置くように、ポンと肩に手を置いて自分の先へと戻って行った
魂が抜かれたようにフラフラと椅子に座り、特大の溜め息をついた
「……ま、まぁ。少々話がそれてしまっているから、軌道修正しようではないか」
少々顔を引きつらせたグルッペンがそう呼びかけて、咳払いをした
しんぺい神も、わざとらしい咳払いをした後に話を続ける
「基本、アルは大人しいよ。何回かトラウマを思い出して怖いんやろうな、って分かるときもあったけどパニックになって暴れたりはせんかった。……だから、まぁ……。」
それ程までに躾が完璧にされている
ここまでの情報共有で元お嬢様のエニスよりも、
アルの方に気を使うべきということは分かっていた
僅かな沈黙の中、黄色の──シャオロンが言葉を零す
「優しさは、きっと怖いよな……」
その呟きに誰にも気づかれないように頷いた誰か達のことを、この場にいる誰もが理解していたはずだ
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作者名:ねっこんこん x他1人 | 作者ホームページ:http://nekokobuta
作成日時:2024年3月20日 2時