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「ご馳走様でした」
「おかわりは?大丈夫?」
「お口に合わなかった?」
空になった食器を見て、雛鶴さん達は心配そうに俺の顔を覗き込む。
料理もとても美味しく、こんなに賑やかな食卓は本当に久しぶりで少し緊張した。
「いえ、とても美味しかったです。ありがとうございました。もともとそんなに食べないのでお腹いっぱいです。ご馳走様でした」
にっこりと外面用の笑顔を浮かべて食器を片付けようと立ち上がるも、彼女達が慌てて阻止をした。
ちらりと宇髄さんに視線をずらすと、ぱちりと目が合う。
だが、何も言っては来なかった。
軽く会釈をして部屋へと戻る。
明日からようやく任務の再開だ。傷の具合は分からないが、激しく動いても支障は一切ない。
ぼんやりと部屋に居るよりも、忙しなく動いていた方が余計なことを考えなくていいし、気が紛れる。
久しぶりに日輪刀を抜くと、同じ緑色の刀を思い出してしまう。
鮮やかな緑色に、刀身全体に鋭く刺々しい紋様が描かれている実弥さんの日輪刀は、とても綺麗だ。
いっそのこと俺も鬼になって実弥さんに斬られたい。
そんな馬鹿げた事ばかり考えていたら兄さんに怒られてしまうだろう。
「Aくん、温かいお茶でもどう?」
襖の向こうから優しい雛鶴さんの声がした。
「ありがとうございます。いただきます」
俺の返事を確認して、彼女はゆっくりと襖を開ける。
おそらく様子を見に来てくれたのだろう。
余計な心配は掛けないようにと気を付けていても、なぜだか空回りしてしまう。
「いただきます」
湯呑みに口をつけて、直ぐに自身の違和感に気付いた。
「熱くない?」
「はい、大丈夫です」
にこり、と微笑んで俺はまた平気な顔をして嘘をつく。
とうとう熱さも感じなくなってしまった。感覚が分からない。
味覚事態も全くなくなっている。先程のご飯は確かに美味しかったのに。
何かか体内に流れ込んでいる、そんなふわっとした感覚だけを感じた。
どんどん普通の人間から遠ざかる俺が、実弥さんの元に帰れるわけがない。
理想とはかけ離れすぎていて、嫌気ばかりが増していく。
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朝ギ(プロフ) - ゆきねこさん» コメントありがとうございます!更新遅くなってしまい大変申し訳ないです…これからも楽しく読んでいただけると嬉しいです! (7月13日 23時) (レス) id: 6f172a3ee3 (このIDを非表示/違反報告)
ゆきねこ - ふぁっ面白すぎて一気読みしました!更新待ってます! (2023年4月14日 9時) (レス) @page16 id: 0a7ce356e9 (このIDを非表示/違反報告)
朝ギ(プロフ) - ナハハさん» コメントありがとうございます!なかなか錆兎との絡みが少なく試行錯誤していますが、楽しんで読んでいただければ嬉しいです! (2022年12月7日 21時) (レス) id: 46cbb9d739 (このIDを非表示/違反報告)
朝ギ(プロフ) - あいせさん» コメントの有難いお言葉ありがとうございます!更新頑張っていきます! (2022年12月7日 21時) (レス) id: 46cbb9d739 (このIDを非表示/違反報告)
ナハハ(プロフ) - 私の推し(錆兎)の小説が少なかったのでこんなにも面白いお話に巡り会えてとても嬉しいです!応援してます! (2022年12月7日 11時) (レス) @page9 id: b3d00b40ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:朝ギ | 作成日時:2022年6月14日 22時