＊ ページ33
手を伸ばされた。
私はこの手をとる資格があるのだろうか。
歩くだけで人々を魅了する彼の手を。才能に溢れ、努力を惜しまぬ彼の手を。
些細な事で揺らぐ心持ちで、なんて。
「何を心配している、俺が居るやろ」
しっかりとした、大きな手だった。
私の手を取り、彼のもとへ引き寄せていく手。
グルちゃんの言葉を反芻して、そう、彼がいるから何も怖くはないのだと。
決して怯える事はないのだと、再確認する。
何時も不安をかき消してくれるのは、グルちゃんだ。
「お前が何を不安に思うのか、事細かく掴み取る事はできん、だが」
彼は、この大学の最上部から集まる人々を見下ろした。
蠢く人々は上層からの紅い光に顔を上げ、
輝く紅い瞳と、薄く覗きだしたハーケンクロイツが、彼がグルッペン･フューラーであることを宣言し、歪んだ唇が言葉を紡いでいくのを、隣で見守ることしかできない。
「俺は俺のやりたい事をする、この地を治めた暁には、この大日本を統治する。
我らが、北海道軍が！
そして北の脅威であるボルシェビキロシアを潰す！ドイツ帝国と条約を結んでもいい！
いまは敵である彼らも味方にすることが出来れば大変な戦力となる。
彼らを、俺を礎にこの大日本帝国は成長していく！
そしてその隣には、お前が居ろ」
ゆっくり私を振り向いた彼の紅が、輝くハーケンクロイツが優しさに満ちて形を変え、驚くしかない私の身体を引き寄せて彼の腕の中に閉じ込めた。
背中に温もりを感じて見下ろすこの学舎は、この世界はとても居心地が良くて、輝かしい。
「曖昧な返事はいらん」
yes or はいのなかで、私ができる事はただ一つ。
「俺の女になるな？」
「Yes,my lord」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 21人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
