＊ ページ27
｢ほら、入って｣
｢あ、どうも｣
彼は男性にしては小さい方だと思う。でも私なんかよりはずっと大きい。違う歩幅を見て、小さな私を見て、やっぱりここを出ても私は大人になど程遠い存在だということを思い知らされる。
｢Aのくれた手紙、向こうの家に持ってってるんだ。暇になったら見てる｣
｢…うぇぇ…？なんでそんなことしてるんですか…｣
｢そんな露骨に嫌そうな顔されたの初めてかもしれないな｣
例え隣に並べたとしても、彼を追い越すことは出来ない。傘が、私たちの距離を縮めた。
｢あ、そうか。｣なんて声とともに、彼は笑う。でもそれは、私の記憶の中の笑みじゃなくて。
｢Aは、｣
｢…｣
｢知らなかったよね｣
だから。彼があまり見せない表情をしているのを見て、思わず不思議な声が出る。その先の言葉はよめない。ピンク色のカーペットは既に終わって、白い輪が不規則に並べられる様は、綺麗だと思った。
｢…俺が、Aのことずっと好きって言おうと思ってたこと｣
｢っ、｣
ぱしゃん。傘が落ちた。私の靴下を濡らして。距離を保っていたそれは見事に崩れて、印象的である真っ直ぐな瞳が、真実を紡ぎ出す言葉が、今だけはどうしても怖い。
知らない。言ってくれなきゃ伝わるわけがない。後悔は今更押し寄せてきて、波が私を飲み込んでいく。なんで、どうして。たくさんのもしもが、私を、
｢ずるいですよ、｣
｢ずるすぎますって、それは、｣
｢…ごめん、俺が、逃げたせいだから｣
｢じゃあ、今までの想いは、どこにやったらいいんですかっ、！！｣
そんな酷いわがままが叶うはずないじゃないか。臆病者め。
子供みたいに泣きじゃくる彼女は、俺の身体を弱く叩く。
物事を始めるには遅すぎた。
あの頃の俺達はあの桃色にくすんで見えなくなっていく。鳴り響く携帯電話と、カバンの中にある包装された箱が、悲しそうに俺に問いかけるのだろう。
｢…ごめん、ね｣
彼女の知らない女の名前が、ディスプレイを飾り付けている。傘は、まだ落ちたままだ。
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