小さい気持ち。<p-p> ページ20
▽
「もう、おっきく書きすぎだって！」
「いいだろ別に！最後だし！」
「どうしよ、こっちもう書けない」
温かい日だった。
みんなの心も、なんだかすっかり大人になっちゃって、
もう、あと少しでお別れで、
このあとの涙なんて想像もできないくらいの
きれいな笑顔が溢れる、緑色の大きな板。
「おはよ〜」
小さい声とか、聞こえてたのなんて、少ないはずなのに、
「あ、ぺーぺ、おはよ!」「おっそ！」
なんて。
溶ける彼の黒髪は、もそもそ、って動いて、
きれいな手は、白いチョークを持っていた。
......なに、書くのかな。
「A！どうしたの！」
「え?」
「ずうっとぼーっとしちゃってさあ、
なに?卒業寂しい?」
「まあ、そりゃ、」
「かわいいなあ、もう」のあとに、
卒業してもまた会おうね、
なんて嬉しい約束を貰えた。
卒業は寂しい。
誰が何を言ったって、
３６５日×３年分の思い出なんて忘れられなくて、
当たり前だけど、もうみんなと簡単にだって、
...会えやしないし。
別れじゃなくて出会いだ、なんて言うけど、
もう高校生。そうして三年生。
出会いなんて、もう、二年も前に使っちゃったのに。
「...であい、」
出会い。
キラキラとした笑顔に吸い込まれるように消えていく。
出会い。
私と、君の出会い。
二年前の、少しあと。
今日みたいに温かい、桜の季節。
・・・
「はい、私担任になります、佐藤です！」
少し高めの声が印象的だった。
「それじゃ、自己紹介お願いしますね〜!!」
体育館にいっぱいの人が集まった入学式。
聞いたことない校歌を聞いて、
あっという間に終わった式。
「はじめまして、佐藤です！せんせとおんなじ名前！
よろしくお願いします！」
はじめの印象は先生と同じ名前なんだ、ってくらいで、
なんとも思ってなかった気がする。
「重くない?持とっか?」
押し付けられた力仕事。
想像以上に重くて、がんばって声で
廊下を歩いてたいたものだ。
たったひとり、心を私にくれたひと。
私なんて単純で、少女漫画みたいに、
案外すぐに落ちたんだと思う。
どうしようもなく、佐藤といった男の子が
キラキラに見えて、聞こえそうな心臓の声。
止まってよ、なんてお願いは聞いてくれないみたいで、
ありがとうなんて、そんな小さい気持ちしか
伝えられなかった。
・・・
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