9 入場 ページ9
遂にこの日が来てしまった。
最終チェックをしようと鏡を見ると、
そこにはばっちりと決められたヘアメイクに、
かっこいい衣装を纏った私が写っていた。
鏡に写る自分も姿は、どう見ても男の子だった。
まだ少しなれない短い髪を弄る。
ああ、本当に私はこれから男の子として出場し、生活していくんだという実感が今更ながら湧いてくる。
絶対にバレては行けない。
そうなったら炎上なんてものでは済まないだろう。
それこそアイドルとして"終わり"だ。
幸いにも、私は女の子にしては身長も高い方で、
肩や膝などの骨格がしっかりしている方であったため
少し華奢な男の子くらいには見えそうだ。
顔立ちも中性的で、昔ショートヘアにしていた時後輩に
男の子だと勘違いされていたことがあるくらいだから、
きっと問題ないだろう。
なんて考えているうちにスタッフさんから入場するよう支持を受けた。
「Aさん入場お願いします！」
『…はい！』
大きく息を吸い込んで深呼吸する。
『よし、行こう…！』
自分を励ますように呟いて、不安と緊張から震える手をぎゅっと握りしめてトンネルのようになった道を歩く。
そこを抜けるとキラキラと眩しいくらい輝くステージへと出た。
ドキドキと逸る心臓。
いまにも震えだしてしまいそうな手足。
気持ちを落ち着ながら、ステージ中央で立ち止まり、
ゆっくりと顔をあげる。
そこにはすでに沢山の練習生達がいて、
ある人は見定めるように、ある人は興味津々といったようにこちらを見ていた。
彼らに負けないようにゆっくりハキハキと言葉を紡ぐ。
「アンニョンハセヨ！SNエンターテインメント所属のAです。よろしくお願いします。」
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作者名：さくらねこ | 作成日時：2023年4月3日 13時
