参（Sasa猫） ページ6
「紬〜〜〜〜！！おい紬！！」
凛華達がいる蝶屋敷からは遠く離れたとある屋敷。
低くも威圧たっぷりの怒号は屋敷全体に響き渡ったことだろう。
ああ。師範だ。師範が怒ってる。
その男らしい声といい、
荒々しい口調といい、
師範そのものだった。
でもこのぬくぬくな布団から出るなんてできない。
私と布団は一心同体。
つまり切っても切り離せない存在。
ならこのままでいいか。
師範の呼び声に答えるのめんどいし。
なによりも……ねむ、い……
ウトウト。瞼が段々と閉じてくる。
夢の世界に誘われる……その時だった。
私の布団がばさっと音を立てて引っ剥がされたのは。
「紬……てめぇ、いくら呼んでも返事がねぇと思ったらなにしてやがる」
顔を上げればこめかみに青筋を立てた師範がいた。
その手には私の布団。
ああ、私の片割れが彼の手に握られている。
やばい。私の布団の生殺与奪の権を師範に握られてる。
「呼んだらすぐ来るよういつも言ったんだろ！！何故来ねぇ！！
「布団が私を呼び止めた。行くなって」
「んなわけねーだろぉが、このアホンダラ！！」
「本当だもん。心が綺麗な人しか聞こえない」
「つまりなんだァ？てめぇ、オレの心が汚いってか！？？」
「違う。師範の心は汚くない。ひねくれてるだけ」
「んだとコラぁ！！！」
私のこめかみをぐりぐりする師範。
痛い。ような気がする。
「……ったく。つかお前ぇ、最終選別から帰ってたんならまずオレのところ報告に来るよう、最終選別が始まる前に言ったろぉ！！何故来ねぇ！！！」
「行った。けど途中で眠くなったから寝た」
歩いている途中で眠いから報告は明日にしようと思ったら裏目に出たみたい。
そのぐらいでカンカンに怒るなんて師範、心狭い。
「師範」
「何だ！！」
「無事生還した。隊服ももらった後は刀だけ。15日ぐらいでくるって」
「……そうかァ」
「褒めてくれないの？」
こてんと首を傾げる。
最終選別、滅茶苦茶頑張った。
と言っても私の元に現れた鬼なんて一匹や二匹程度だったけどがんばった。褒めてくれてもいいと思う。
師範は「はあ！？？」と顔を思いっきり顰めたが大きくため息を吐くと私の頭をワシャワシャと撫で回した。
犬を撫でるみたいでちょっと嫌だけど、
私の頭を撫でる彼の手はひだまりのように温かった。
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