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「何かあったの?」
「あ、えっと......」
慌てて顔を上げると、そこにはひとりの男の子が立っていた。
ぱっと見、同い年くらいだろうか。
不思議そうに顔を覗き込まれて、恥ずかしさが増す。
「すみません、何でもないんです」
「何でもないってことなくない?そんな泣いてるのに」
「いえ、あの、ほんとに......」
首を横に振る私を無視して、男の子が隣に座ってきた。
「行き先わかんなくなっちゃった?」
「え......?」
「財布忘れて乗れないとか?」
「いえ、あの......」
「あ、財布はあるけどお金が入ってなかった......とか?」
必死に考えてくれているようなのに、どれもちょっとズレていて、不覚にも少し笑ってしまった。
濡れた頬を指で拭うと、涙はいつのまにか止まっていた。
「あの......どれも違います」
「え?だってここバス停だよ?」
「歩いてたら涙が出てきちゃって、たまたま見つけて座ってただけなんで......」
「歩いてたら涙が出てきたの??」
男の子は更に不思議そうに、目をぱちぱちとさせた。
「いったい何があったわけ?」
「いや、えっと......大丈夫です」
「全然大丈夫じゃないじゃん!まじでどうしたの?」
「えっと......見ず知らずの方に話すようなことじゃないんで......」
「いいからとりあえず言ってみてよ。話せば楽になることもあるかもしんないし」
ニカッと笑って言われて、とりあえず話してみようかな......何故だかそんな気持ちになった。
事の経緯をひと通り話し、素直な気持ちを聞いてもらうと、胸の奥に絡まっていたモヤモヤは幾分スッキリしていた。
といっても、何ひとつ解決はしていないから、まだ、いつもみたいには笑えなかった。
男の子は隣でじっと黙ったり、ときどき頷いたりしながら、根気強く私の話を聞いてくれた。
初めて会ったのに、こんな話聞かせちゃって......申し訳ないな。
でも、今ここにこの人が通りかかってくれてありがたいな、と心から思った。
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作者名:えみゅ | 作成日時:2023年1月13日 22時