【番外編】のどかな休業日 ページ50
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大きなオーブンが運ばれていく様を、邪魔にならないように隅に陣取りながら、3人で眺めた。
「ごめんねぇ。しめも閑也も。休みなのにつきあってもらっちゃって」
「いいって。レッスンも夕方からだし」
「そうそう」
「ありがとねぇ」と如恵留がコーヒーを差し出してきた。
ワインソムリエでもある如恵留は、最近コーヒーの勉強も始めたところだ。
今日は新しい調理器具の搬入の日。
如恵留が立会うというので、しめとふたりでお供することにした。
俺もしめも担当はホールだけど、厨房の様子が変わるのは、それはそれで興味深い。
如恵留ひとりに任せるのも申し訳ないし、レッスン前に店に寄ることにしたのだ。
「めちゃくちゃいい天気だぁー」
窓の外を眺めて如恵留が言う。
「今頃楽しんでるかなぁ、松倉」
「松倉がどうかした?」
「こないだ遊園地のチケットをあげたんだよ」
あぁ、お土産とか言ってたあの封筒のことかな。
俺に託すとき、「松倉はいつも頑張ってるから」と、お兄ちゃんみたいな眼差しで言っていたっけ。
「あれ、遊園地のチケットだったんだ」
「そう。4枚もらったから、松倉にペアであげたの。今日行ってくるってお礼と報告もらったんだ」
「へー、律儀なやつ」
「もうワンペアは俺の元教え子にあげたんだけど。海人っていって......あ、松倉と同じだね」
「漢字は違うけど」と呑気に笑う如恵留を他所に、俺としめは顔を見合わせた。
「やっぱり遊園地は学生のほうが喜ぶかなって。そういえば大学まで松倉と同じだ。Aちゃんともね」
「しめ、その海人って......例の海人だよね?」
「うん......うちのA、昨日の夜、なんかそわそわしてフェイスパックしたりしてたけど......」
松倉が誰と遊園地に行ったのかはわからないけど、ふられたAを誘うはずがないし。
なんだか嫌な予感がして、もう一度しめと顔を見合わせた。
「A.....海人に誘われた、とか?」
「だとしても、まさか、行く日にちかぶる?」
「まあ、でもさ。遊園地って広いし?」
「だよね、うん。......いや、でも......」
でも。胸がザワザワするぞ......
「「.......まさか、鉢合わせなんてしてないよね??」」
思わず俺としめの声が揃った。
ひとりだけ何もわかっていない如恵留は、困り顔でつぶやいた。
「えっと......俺、なんかマズイことした?」
fin.
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#3へ続きます→
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作者名:えみゅ | 作成日時:2023年1月13日 22時