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おそらく、のえさんは、その仕入れ先からこのチケットをもらったのだろう。
それを、しめさんや閑也さんのような大人の従業員よりも、学生組の俺らに優先的に回してくれた。
そんなところだろうか。
みんなに優しいけれど、歳が離れていれば離れているほど優しく丁寧に接してくれるのえさんの考えそうなことだ。
「遊園地、好き？」
「うん、まあ」
「んじゃ、あげる」
チケットを封筒に戻し、彼女の前に置いた。
「誰かと行ってきなよ」
「え、でも」
「俺、一緒に行くような人いないし」
なんて言ったって、傷心中だしね。
遊園地、という文字を見てまっさきに浮かんだのはAの顔だったから、当然、頭の中でバツ印を描く。
その次は元太だったけれど、あいつを連れて行ったらテンションが上がってギャーギャーうるさくなるのが目に見えているから、存在を忘れることにした。
「......一緒に、行かない？」
様子を伺うような小さな声で、彼女が言う。
「せっかくふたりでいるときにもらったんだし」
「あぁ、そっか。確かにそーだよね」
その考えはなかった。
言われてみればその通り......なんだけど。
「あ、ほら！来月、休業日があるじゃない？」
「オーブンの入れ替えがあるっていう日？」
「そう。その日はどうかな......？」
確かに、厨房のオーブンが古くなってきたから新しい物を購入した、と、のえさんが言っていた。
それならばいっそのこと、他にも老朽化の気になる物は入れ替えをしようということになった。
わりと大掛かりな作業になるから、一日仕事になりそうもなく、その日は潔く休業日にする、という話だった。
その日なら、店が稼働しないのだから、俺も彼女も休みになる。
「そっか、その日か......」
暇なのはわかっているのに、どうしてか、すぐに返事ができなかった。
「何か予定ある？」
「あ......えっと、」
「私、松倉くんと一緒に行きたいな」
そう言ってまっすぐに俺を見た彼女は、今までに見たことのない顔で。
慣れているはずの関係なのに、初めて会った人みたいに、ドキドキして。
「ダメかな？」
「いやっ、あの、じゃあ......予定確認して連絡するわ」
「うん。待ってるね」
６年もA以外の女の子をちゃんと見て来なかったから、こんなとき、どうしていいかわからない。
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作者名：えみゅ | 作成日時：2023年1月13日 22時
