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「6年だよ、6年。本当、バカだよね?」
自虐的になって笑う俺とは反対に、彼女の表情はますます真剣なものになっていく。
「そんなこと......。きっと素敵な人なんだろうね」
「それはね、そう。本当イイやつなの」
「松倉くんにそんなふうに想われるなんて、ちょっと羨ましいなぁ」
彼女はそう言うと、表情を崩して、ふふ、と笑った。
それからいろいろな話をした。
店のこと、お互いの大学のこと、友達のこと。
バイト先で顔を合わせるだけではわからなかったことが少しずつわかって、こういう時間も必要なんだな、と再認識した。
もともと仲は良かったほうだけど、距離も更に縮まったし、彼女とはこれからもいい仲間でいられそうだ。
話も弾んで、スマホの時計を見れば、そろそろいい時間。
「あい、お待たせしました〜」
これをラストにしよう、と彼女と決めて注文した一杯を運んできたのは、閑也さんだった。
「これ飲んだら帰ります」
「お、そっか。いっぱい飲んだ?食った?」
「はい、それはもう」
「ね。いろいろ勉強にもなったし」
「そりゃよかった。またおいで」
店はそれなりに混んでいるにも関わらず、疲れた顔ひとつ見せない閑也さん。
それどころか、俺らがこのテーブルに着いた2時間前と変わらない笑顔なのは、さすがだ。
「あ、そうだ」
閑也さんが急に、はっとしてつぶやいた。
「これ、如恵留から。お土産だって」
「お土産?」
「さっきチラッと顔出してさ。いま松倉たちが来てるよって言ったら、これ渡しといてって」
「え......何だ?」
「俺も中身は聞いてないんだけど」
そう言って閑也さんは、ユニフォームのポケットから白い封筒を取り出した。
それを俺に手渡すと、「それじゃあな」と行ってしまった。
封筒の中身は、何故か、遊園地のチケットだった。
「え......何で?2枚あるけど」
「ご招待券、って書いてあるね」
「えと......これがあれば無料になるんだって」
「その遊園地って確か、親会社が物流関係もやってるんだったよね。輸入の食品とか、ワインとか」
「あ、なんかこの会社名、見たことあるかも。こないだの試飲会で決めたワインの仕入れ先だったような......」
ツギハギの情報を出し合っているうちに、いろいろなことが繋がって、ふたりで納得した。
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作者名:えみゅ | 作成日時:2023年1月13日 22時