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「松倉とはさっき店で一緒だった。まあ、元気に働いてたけどね」
「......何か言ってた?」
「Aのこと諦める、って言ってたかな」
「そう......」
松倉のことを思うと、やっぱり複雑な気持ちになる。
けれど、これでよかったのだと思うしかない。
もうこれ以上、傷つけるわけにはいかないし。
「ていうかさ。なんか想像してたのと違ったわ」
海人くんの消えて行った方向を見つめて、しーくんが言う。
「なんていうか......Aの話聞いて、もっと素朴な感じ、っていうか。そこらへん走り回ってるサッカー少年?みたいな。あんなイマドキのイケメンじゃない、って勝手に思ってた」
「......」
「でもまあ、16年も経ってれば変わるか」
「......そうだよ」
しーくんの言葉を聞きながら考えたけれど、海人くんが想像通りだったかどうか、今となってはよくわからない。
私だって、16年の間に変わった部分、変わっていない部分......いろいろあるだろうし。
海人くんはどうなんだろう。
私に会って何を感じているんだろう?
私のこと、少しでも覚えていてくれているのだろうか。
「あのね、しーくん。お願いがあるんだけど......」
「うん、どした?」
「今のこと、お兄ちゃんには言わないでほしいんだ」
「いいけど。......そんなビビんなくても(笑)」
「お兄ちゃんが知ったら、松倉にも伝わっちゃうかもしれないし......」
「あぁ、そういうことね」
しーくんは納得したように頷いた。
「大丈夫。言わないよ」
「ありがとう」
「でもさ。家の前でチューはさすがにやめといたほうがいいんじゃない?」
「う......」
やっぱり、見られていたんだ。
お兄ちゃんでなくてよかった......本当に。
「ま、しめのこと心配させないようにしなね。あと松倉もね」
「うん......わかってる」
「って、余計なお世話か。そんじゃ、また」
しーくんと別れて家に入ると、リビングでTVを見ていたお兄ちゃんが「遅かったね、デート?」と聞いてきて、咄嗟に「違うよ」と嘘をついてしまった。
私と海人くんの関係って.......私たちが一緒に過ごしている時間って.......
何て名付ければいいんだろう?
唇に残った感触は、何も答えてはくれなかった。
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作者名:えみゅ | 作成日時:2023年1月13日 22時