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あの後、海人くんともう一軒だけ行った。
ふたりで飲んでいる最中、どうしてもクラさんとAさんのことが気になって、海人くんがトイレに立った隙にクラさんにメッセージを送った。
" 帰れた?"って、ひと言だけ。
結局既読スルーだったから、どうしたんだろうと思ってはいたけれど......なるほど。
俺からのメッセージが、クラさんの抑止力になっていたとはね。
実を言うと、ほんの少しだけ、そういう期待がなかったわけじゃなかった。
あんなふうに無理にでもAさんと海人くんを引き離さないと、ふたりきりにはなれないだろうからと、俺なりに気を回したつもりだった。
だから、まあ、これで良かったのか......なんなのか。
「俺......もうやめたほうがいいんだよな」
クラさんが言う。
「最初からふられてんのに、ずっと聞こえてないふりしてて......それなのに、全然こっち向いてくれないからってキレるなんて、まじで最低」
「でもさ、そんだけ好きだってことじゃん?」
「そうだけど......」
言うのは簡単だけど。
心はそんなふうに割り切れるものじゃないって、外野で見ているだけの俺にだって、よくわかる。
「全部俺が悪いんだよ。俺がもっとちゃんと現実見てたら、こんなことには......」
「どっちが悪いとかいう話じゃなくない?」
「いやっ!俺のせいなんだって......」
「あーはいはい。じゃ、もうそれで。悪いのはクラさんで。決まりね」
「んだよっ、その言い方!こっちは真剣に悩んでんのに!」
クラさんがテーブルに前のめった振動で、氷水入りのコップが一瞬、揺れた。
ピュアなのはいいんだけど......
本当、生真面目すぎ。
「もう、うるさいなー。自分がそう言ったんでしょーがっ」
「いや、だけどさぁ......」
「じゃあAさんだ。Aさんのせいでこうなったんだ」
「おまっ、」
「Aさんの曖昧な態度がクラさんを勘違いさせて、ズルズルとここまできてしまった。これでいい?」
「違う!Aは何にも悪くなくて、俺が......」
あーもう。めんどくせぇ。
どっちにしろ、Aさんのことは庇うくせに。
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作者名:えみゅ | 作成日時:2023年1月13日 22時