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「おまたせ致しました」
ベテラン風の店員さんが運んできたカップを、３人とも自然と同じタイミングで覗き込む。
中は空。
それもそのはず、この店のカフェオレは、店員さんがお客の目の前で完成させるパフォーマンスが売りだというのだ。
店員さんは右手にミルク、左手にコーヒーのポットを持って身構えると、胸の高さからカップめがけて注いでいく。
左右同時にスタートし、ぴったり同着でゴールした頃には、カップの中で見事なカフェオレができあがっていた。
「ごゆっくりどうぞ」
涼しい顔で去っていく店員さんを見送って、Aが声を上げる。
「すごいね。こんなの初めて」
「淹れ方だけじゃなくて、味も評判いいみたいだよ」
「そうなんだ。紫耀くん、こんなところよく見つけたね」
ニコニコ、楽しそうに紫耀に向ける笑顔が眩しくて、思わず目を逸らした。
「そりゃあさ、Aちゃんのためだもん。何だって見つけてあげるよ」
「ふふ。ありがと」
「...あ、A、熱いから気ぃつけてな」
「あ、うん。そうだね」
「俺ふーふーしたろか？」
紫耀がムッとした顔で俺を見る。
「なんで廉がそんなことするの」
「なんでって、熱そうやから」
「だったら俺のやつやってよ」
「なんっでおまえのをやらなあかんねん」
バチバチ、俺と紫耀との間に見えない火花が散る。
四角のテーブルを３人で座るから、しかもふたりともAの隣を譲りたくないから、どうしたって俺らが向かい合わせになるわけで。
目の前の視線がAの顔を追うたび、Aの声に反応するたびに、お互いに苛立ちを隠せなくなる。
こいつさえいなければ、ふたりきりになれるのに...。
「...ねえ、ふたりとも」
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作者名：えみゅ | 作成日時：2022年10月29日 23時
