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「始まる前からこんなん言うのなんやけど、映画の後はどうする？」
「んーと、何も考えてなかった...」
「飲み行くか。どっか安くて美味いとこ」
「うん、行こう行こう」
映画館が見えてきて、自然と急足になる。
胸が跳ね上がりそうにワクワクするのは、映画が楽しみだから、だけじゃない。
映画館に着き、チケットを買ってシアタールームに入る。
席に着いて、映画が始まるまでの間、ひそひそ声で他愛もない話をした。
キャストの俳優さんが小学校のときの担任の先生に似ていること。
冒険して選んだポップコーンの味が思いのほか当たりだったこと。
海ちゃんが同じ学部の女の子に連絡先を聞かれていたこと。
そんなことを話しているうちに、まばらだった席が少しずつ埋まっていく。
照明が落ち、いよいよ映画が始まる、というときだった。
「...あのさ、」
廉くんが私の頬に顔を寄せてきた。
ふわりと、はちみつのいい香りがする。
これは、プレゼント交換で私が選んだ、あのリップクリームのものだ。
「来週クリスマスやん」
「うん」
「今年、イブも含めたら土日やん」
「そうだね」
「どっちか空けといてな」
「うん、了解」
「...あ、やっぱどっちかやなくてどっちも」
「ふふ。わかりました」
肘掛けに置いていた私の手の上に、廉くんが手を重ねてきた。
廉くんの大きな掌に覆われると、私のはまるごと見えなくなってしまう。
あったかいな。
手があったかい人は心が冷たいなんてよく聞くけど、そんな嘘、いったい誰が言い出したんだろう？
「んじゃー...俺んち来る？」
「いいの？」
「そのとき言いたいことあるから」
「え、」
「そのつもりでおってな」
手は繋ぐけれど、きちんとつき合っていない私達。
お互い好きな気持ちは感じているけれど、確かな決め事はまだ、ない。
だから、それって、つまり.....
「...お、始まった」
もう、ひとつしか浮かばなくて、妙に照れくさくなって、でも、嬉しくて。
軽快にスタートした映画が、想像していたのとは違って見えた。
廉くんの "言いたいこと" 。
私の予想通りだったとしたら、いいな。
そのときは笑って「イエス」と答えよう、と思う。
私からあなたへと向けた、心の矢印を添えて。
fin.
最後までお読みくださりありがとうございました☆
.
終わり
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作者名：えみゅ | 作成日時：2022年10月29日 23時
