56【終】 ページ28
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ドアを開けて一番最初に目に入るこの光景が、やっぱり好きだった。
「おー、いらっしゃい」
「こんにちはぁ」
いつものように優しく迎え入れてくれる岸さん。
それと、カウンターの席で岸さんと話しながら、私を待っていてくれる廉くん。
ふたりの笑顔に会えるこのときが、私にとって何より贅沢な瞬間だ。
「早かったね、廉くん」
「まあな」
「廉、待ちきれなかったんじゃない？」
「Aちゃんとのデートが」と狙いすましたように岸さんが言って、廉くんが「はいはい」と流す。
そんなやりとりも、いつもの光景。
見ているこっちまで微笑ましくなる。
「そんじゃ、行くか」
廉くんが席を立つと、岸さんが驚いたように言った。
「なに、もう行くの？」
「うん」
「なんか飲んでけばいいじゃん。おごるし」
「いや、ええわ」
「なんで」
不思議そうに廉くんの顔をじっと見つめる。
ほんの３秒見つめ合った後、岸さんは呆れたように顔を崩して、わざとらしく溜息を吐いた。
「あーはいはい。俺は邪魔ってことね！」
「そーゆーこと。行こ、A」
「んじゃここで待ち合わせしなきゃいーだろがっ」
「だって外寒いし」
「わかったわかった。もー行っていいよ！またね、Aちゃん」
「はい、また」
岸さんと手を振り合って、お店を出た。
「寒なったよなぁー」
そう言って繋いだ手に力を込める廉くんの横顔が、綺麗で。
思わず見惚れていたら、何もない道で躓いてよろけてしまった。
「おっと、」
咄嗟に抱き寄せられ、難を逃れた。
転ばなかった安堵感と、まだ記憶の中に鮮明に残っている懐かしさが胸に込み上げて、なんだかくすぐったい。
「はー...びっくりしたぁ」
「いやこっちの台詞やねんけど？」
「ごめんね、もう大丈夫だから」
「ほんまに危なっかしいわ。そういうとこ全然変わらへんねんなぁ」
大丈夫と言っているのに、抱き寄せた肩を離さない。
小言を言っているようでいて、声に優しさが溢れている。
初めて会ったときもそうだった。
あの図書館で、よろけた私を支えてくれた廉くん。
一見近寄り難いほど整った顔をしているくせに、笑うと驚くほどかわいらしくて。
いつのまにか境界線を割って入られて、私の生活をまるごと変えてしまった。
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作者名：えみゅ | 作成日時：2022年10月29日 23時
