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『...ありがとう』
Aの声が耳に響く。
『でも...何て言えばいいかわからなくて』
「うん。そうやと思う」
『紫耀くんにもまだ中途半端な返事しかできてないし...』
「うん...」
どんな返事でもかまわない。
このまま、ここで、その声を聞かせてほしい。
『でも...紫耀くんにね、もしつき合ったら廉くんとはもうふたりで会えなくなるよって言われたの』
「...まあ、そうかもな...」
『そのときね。もしこのまま廉くんに会えなくなったら、って想像したら、すごーくすごーく悲しくなっちゃって』
「.....」
『そんなの嫌だなぁって思ったら、紫耀くんの気持ちを受け入れることもできなくて...』
流れてくる声に引き込まれて、冷静に聞き入っている自分がいた。
何を言われてもいい覚悟でここに立っている。
Aの声は、ずっと優しい。
『さっき廉くんは、岸さんのことをふっきれたのは私が頑張ったから、って言ってくれたけど、私にとってはやっぱり廉くんのおかげなんだよ』
「.....」
『廉くんがいてくれてよかった。廉くんと出会ってなかったら、きっと今の私はいないから...』
「...それ、俺のこと好き、って都合よく解釈するわ」
「いい？」と念を押すと、Aは笑って、否定しなかった。
「もうそれ聞けただけで充分やわ」
『ふふ』
「...こっちも冷えてきたし、そろそろ帰るな」
『うん。風邪ひかないようにしてね』
「Aもな」
「また来週」と言い合って、電話を切った。
スマホを握っていた手は、いつのまにか冷たくなっている。
本当に風邪をひかないようにしないと。
学校で一日でもAに会えないのは、つらいから。
冷えた手をさすって、閉じたカーテンの向こうを想いながら、辿ってきた道を引き返した。
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作者名：えみゅ | 作成日時：2022年10月29日 23時
