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あれからたいして慰めることもできなかったけど、いつのまにか時間も経過して、少しは落ち着いたかな。
そうであればいいな、という願いも込めて、尋ねた。
Aは少しの間をおいてから、答えた。
『うん...そうだね』
「それはよかった」
『みんなが心配してくれたおかげ』
「心配はしてたけど。でもAが自分で頑張って前向こうとしてたからやろ？」
Aは強くなった。
自信を持つこと、目標を持つことって、こんなにも人を変えるのものなのかと驚かされた。
目標だった、岸くんと先へ進むことは叶わなかったとしても、今のAは充分輝いている。
Aを想う俺にとっては、それはもう、眩しいくらいに。
「...さっき言いそびれたこと、言うな？」
『え...うん。あ、ちょっと待って』
２階の角部屋の窓から、灯りが漏れた。
顔ひとつ分開いたカーテンの隙間から、キョロキョロと首を動かして俺を探すAの顔が見える。
『...あ、いたいた』
「部屋、そこなんや」
『スッピンだからあんまり見ないでね』
「はは。ここからじゃ見えへんて」
ふふ、と笑うAの顔が、月灯りに照らされて、綺麗だった。
スッピンだろうが何だろうが、Aはいつだって綺麗だ。
「よかった。やっぱり顔見て言いたかったから」
Aは黙ってスマホを握りしめている。
囚われのお姫様とそれを迎えにきた王子のように。
目には見えない糸で結ばれているみたいに。
じっと動かないままで、ふたり、見つめ合った。
「もし、Aが次にまた誰かを好きになりたいって思うなら、それは俺にしてほしい」
『.....』
「前の恋愛のこともひっくるめて、Aの全部、俺が受け止める」
『.....』
「好きや、A」
何も言わないAを見上げて、心は清々していた。
ずっとこれが言いたかったのだと、やっと気づけた。
自分が一番自分のことをわかっていなかったなんて、思いもしなかったから。
たぶん、最初から、友達なんかじゃなかった。
友達だと思おうとしていた頃にはもう、友達じゃなくなっていた。
随分遠回りした気もするけれど、気づけてよかった。
Aを好きだと胸を張って言える自分が、他の誰といるよりも、一番自然な気さえした。
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作者名：えみゅ | 作成日時：2022年10月29日 23時
