48 ページ1
( Hirano
.
.
.
中庭の隅っこにあるベンチは、死角になっていて、人目につきにくい。
だけど、一部の廊下の窓からは見える位置にあるってことを、廉は知っているのだろうか。
隣に座っている女の子に向かって、何度も頭を下げる廉。
それを受けて、女の子は首を横に振る。
うつむいて目の当たりを抑えているけど...もしかして、泣いてる？
...え、廉が泣かせたの？？
廊下からしばらく様子を窺っていると、女の子が先に席を立ち、こっちに向かってくる。
見つからないように半身を翻して顔を伏せると、女の子はそのまま通り過ぎていった。
少しして、廉が立ち上がった。
今度は敢えて見つかるように顔を出して、廉が来るのを待つ。
「...え、」
「うーっす」
「なんでおるん」
怪訝な顔をする廉に「たまたま通りかかっただけ」と答えると、廉はその鋭い目で俺をじろりと見て「まあええけど」と呟いた。
何かあったのだろうということは、その雰囲気ですぐにわかった。
「...泣いてたね、あの子」
「どこから見てたん？悪趣味やな」
「ついさっきだよ。そこに廉がいるって気づいたときにはもう泣いてた」
話を聞けば、あの子は廉のことを好きな子で。
熱烈な告白の手紙をもらい、ちょうどその返事をしていたところだったらしい。
あの涙のワケは...なるほど。
そういうことね。
「断ったんだ？」
「しゃあないやん。ありがたいことやけど、全然知らん子やし。中途半端に引き伸ばして宙ぶらりんにしとくわけにもいかへんし」
「いや別に責めてるわけじゃないけどさ」
責めてるわけじゃないけど、でも、女の子があんなふうに泣く姿を見ると、胸が痛む。
廉だってきっと同じ気持ちだろうけど、なんていうか、何とかする手立てはなかったのかな...とか、余計なことを思ってしまう。
「かわいい子だったじゃん。つき合ってみればいいのに」
「おまえに言われるとなんかムカツク」
「あ、そう？ていうかなんで断ったの？」
「...好きなやつがおるから」
「へえ？」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 90人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：えみゅ | 作成日時：2022年10月29日 23時
