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「試してるんちゃうよ。...好きなだけ」
昂る想いに従って、もう一度キスをした。
たった１数えただけで離れたのは、５までに拒否されるのが怖かったからだ。
静かに顔を離した俺を、Aは微動だにせず見つめている。
「俺がなんで浮気したか知ってる？」
「...知らない」
「おまえのせいやで」
そのとき、前方から突然強い光が差し込んだ。
一台の車が、地上からゆっくりとこの駐車場へと降りてくるのが見えた。
その瞬間、お互い、車が向かってくる方向から条件反射的に顔を背けた。
俺もAも、"誰かに見られたらマズイ"という危機的感覚が、体に染みついてしまっている。
車は目の前を通り過ぎ、駐車場の奥へと向かう。
「...あの車が行ったら、もう降りるから」
「ん...」
「これから仕事でしょ？」
「ん、まあ」
遠くでバタン、とドアを開閉する音が聞こえる。
そっと振り返ると、車の運転席から男が降りてきて、マンションへと繋がるエレベーターにまっすぐ乗り込んだ。
「...それじゃ、行くね」
男の姿が見えなくなったのを確認して、Aが言う。
「送ってくれてありがとう」
「いや...足、大事にせえよ」
チラリと足に目線を落として、「うん」と頷くA。
その手がドアに触れたのを見て、俺は咄嗟に呼び止めていた。
「...さっきの話、」
さっき、俺が言ったこと。
「好き」ということ。
それに対するAからのリアクションがない。
タイミングが良かったのか悪かったのか。
車が入ってきて、話はぶった斬られたままだ。
「また今度、させてな」
「.....」
「連絡する」
Aは俺に背を向けたまま、何も言わずに、車の外へ出た。
そのまま、さっきの男と同じように、エレベーターのドアの向こうへと消えて行った。
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作者名：えみゅ | 作成日時：2022年10月23日 22時
