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( t.o
*16の続き。
流れる景色をただぼんやりと眺めるだけで、お互い話すことはない。
でも、それでよかった。
Aが隣にいるというだけで、少なくとも、俺はそれでいい。
「そこの信号右やったっけ」
「うん...」
吐息を漏らしたような返事に、ハンドルを握ったまま横目で様子を窺うと、頭を背もたれに深く預けて眠そうな顔。
自宅とは違う環境で、朝からいろいろとやることがあっただろうから、無理もない。
薬の影響もあるんだろうし。
「...疲れたな」
「...うん...ちょっとね...」
「寝ててええで」
「...ん...」
目印を予めいくつか聞いていたし、道順はたぶん大丈夫。
Aの住むマンションに行ったことはないけれど、問題なく送り届けられるはず。
それから少しして、助手席が完全に沈黙した。
また横目で確認すると、Aはまぶたを閉じて眠りに落ちていた。
(...はや)
よほど眠かったのだろう。
寝ていい、と俺が言ってから、１分も経っていない。
少しは安心してくれているのかな。
車に乗ってからも、しばらくは、警戒した目をしていたから。
そう思うと、何も話さなくなった横顔さえ愛おしくなる。
つい半年前まではすぐに触れられる距離にあった、あどけないその寝顔も。
車は順調に進み、目印にしていたコンビニの前を通り過ぎて、目的のマンションの前に辿り着いた。
地下駐車場のゲート前に回り込むと、ロックを解除するためのキーが必要で、眠ったままのAを起こさないように、そっとバッグの中を物色させてもらう。
それからすぐ、内ポケットの中に、運良く、きちんとキーケースに収まったそれらしいものを見つけることができた。
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作者名：えみゅ | 作成日時：2022年10月23日 22時
