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「...はい。わかりました。それじゃ...」
話を聞き終え、終話ボタンを押した。
深い深い溜息が漏れて、俺はそのままがっくりと項垂れた。
「...丸？」
口を閉ざしてじっと俺を見つめていた大倉が、遠慮がちに口を開く。
「...なんかあったん？」
「...A、が...」
大倉の声を聞いた途端、しっかりしなければ、と張り詰めていた糸が切れた。
声が震える。
「Aがどうかしたんか？」
「事故やって...」
「事故？」
前から予定していた元上司を交えた食事会の帰り、Aが脇見運転による事故に巻き込まれた。
一緒にいた職場の仲間がすぐに救急車を呼び、迅速に病院に運ばれたおかげで、幸い命に別状はないとのことだった。
「怪我はたいしたことないんらしいんやけど、ショックでパニックになってて、今薬で眠ってるって...」
「そんでその◯◯病院いうところにおるんやな？」
「今日はこのまま入院するらしい...けど...どうしよ...すぐ行くべきなんやろうけど...」
俺が行ったらどうなるか。
病院に、Aに、どんなに迷惑がかかるか。
嫌な想像しかできなくて、すぐには決断できない。
もし、俺が普通の仕事をしていたら。
もし、俺が普通の彼氏だったら。
Aとつき合い始めてから、もう何度となくそう思ってきた。
このときほど、自分の職業を、立場を、呪ったことはない。
「そうや、マネージャーさん...」
ふと顔が浮かんだその人の名前を、急いでスマホから呼び出した。
あの人ならAも会ったことがあるし、安心して任せられる。
「...あ、丸山です。こんな時間にごめんなさい。ちょっとお願いがあって...」
マネージャーに事情を説明して、俺の代わりに病院へ行ってもらうことになった。
まずは家に戻って、一泊の入院に必要なものを急いで揃えよう。
「ごめん。俺帰るな。マネージャーさんと俺んちで落ち合うことにしたから」
「...ん。わかった」
「これ、置いてく」
財布から札を取り出してテーブルに置いた。
「うん」と頷く大倉に軽く手を振って、急ぎ足でその場を離れた。
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作者名：えみゅ | 作成日時：2022年10月23日 22時
