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実を言うと、前からそうなんじゃないかと、心のどこかで思っていた。
相手に対する態度を変えたのは、丸より、どちらかというと大倉のほうだった。
気遣い屋の丸がAちゃんの話題を控えるのは勿論のこと、大倉も、決してそこに触れることはなかった。
まるで過去につき合っていた事実などなかったかのように振る舞った。
それに伴って、裏での丸との接触を極力避けているように、俺には見えていた。
それは、丸というより、丸を通して見えるAちゃんの面影から逃れたいからなんじゃないか...って。
そんなふうに、俺は思っていた。
「...まだ好きなんやな」
「わからへん...でも、後悔してる」
入口のほうで「お疲れー」と元気な声が聞こえ、村上くんが入ってくるのが、目の端っこに入った。
あと到着していないのは、ひとりだけ。
もうまもなく集合時間になるし、じきにやってくるだろう。
「後悔っていうんは...別れたこと？」
「なんかもう、いろいろ。でも...しゃあないやん？Aはもともと俺より丸のほうが好きやったんやから」
「もともと、って？」
「最初っから丸のことが好きやったんよ」
そのとき、「ごめんー」と、大倉と俺の会話を止めさせるその人の声が聞こえてきた。
丸が入ってきた。
遅れたと思い込んでいるのか、ちょっと慌てた様子で。
壁にかかっている時計を見ると、ちょうど時間ぴったりになったところだった。
体の向きを変え、会話が悟られないように死角をつくって、大倉に言う。
「大倉、うちで話さへん？」
「安んちで？」
「うん。今日、これで終わりやろ？」
「...わかった」
「あ、お疲れー」
背中に、丸の声。
振り返ると、いつものニコニコ顔でこっちを見ていた。
「おー、丸もお疲れ」
「何、ふたりで密談？」
「まあそんなとこ」
何も知らないその笑顔が、ときに誰かを苦しめているかもしれない、だなんて。
気づかないほうがよかったのかな。
部外者のはずの俺ですら、こんなに胸が痛いんだもの。
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作者名：えみゅ | 作成日時：2022年10月23日 22時
