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「今回はこれくらいで済んでよかったけど...もしまたAに何かあったらって思うと、俺もう仕事どころやないもん」
「隆くん...」
「そやのに会いにも行かれへんなんて...。次おんなじようなことがあったら、耐えれる自信ない」
しがみつくように抱きしめてくる。
どこにも行くな、と、泣くのを我慢する子供みたいに。
そんな隆くんが愛おしくてたまらなくて、背中をきつく抱き返した。
どこにも行かないよ、と伝える母親のように。
「何も起こらないようにもっともっと気をつけるから」
「ん...」
「だから隆くんは安心してお仕事頑張って。ね？」
「...なんでそんなええ子なん？」
隆くんが腕を緩めて私の顔を見る。
「もー...危ないから、夜出歩くんは禁止！」
「えっ？」
「昨日みたいな飲み会もダメ。ていうかそもそも飲み会とかイヤやってん」
「えぇ...」
「...っていうのは冗談やけど。ほんまに気をつけてな？」
「うん...わかった。隆くんもね？」
「もちろん」と笑ったかと思うと、隆くんは急に何かを思い出したようにはっとして言った。
「そろそろヤバイかな...マネージャーさん、下で待たしてて」
公演と公演の間の僅かな自由時間に、こっそり抜け出してきたらしい。
ちょうど現場に入っていたマネージャーさんに無理を言って、車で送ってもらったのだとか。
「今から帰るってメッセージ見て、ちょうど休憩に入ったとこやったから」
「そんな、せっかく休める時間だったのに」
「だってどうしてもAの顔見たかってんもん」
「電話でもよかったのに...」
「あかん。ちゃんと顔見てぎゅってせんと安心できひん」
そう言って、自分が言った通りにぎゅっとする。
その温もりで、私の足の痛みも、優しく溶かしてくれそうな気がした。
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作者名：えみゅ | 作成日時：2022年10月23日 22時
