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「もっと堂々としとったらええのに」
「堂々と？」
「せっかく手元に返ってきてんやからさ」
「...どういう意味？」
何事もないような顔をして、大倉が目の前の大皿に箸を伸ばす。
(...手元に返ってきた、って...何？)
もう一歩、踏み込んで話そう。
そう決意した瞬間、テーブルに伏せていた俺のスマホが鳴った。
裏返した画面を見て固まる俺を、箸を止めて大倉が見た。
「...どうしたん？」
「...電話...Aから...」
この時間、大倉と飲んでいることを知っているのに。
それでもかけてくるとは、よほどの急用ができたのだろうか。
「出たらええやん」
「...ん。ごめんな」
スマホを持って席を立とうとすると、大倉がそれを制した。
「別にええやん、そこで」
「え...でも」
「早よ出たりぃな。待ってんで」
戸惑いつつも、鳴り続ける着信音に急かされて、仕方なく通話ボタンを押した。
すると、スマホの向こうから流れてきたのはAではなく、知らない女の人の声だった。
『あの、突然すみません！Aの彼氏さんですか？履歴の一番上にお名前があったので...』
「え？あ、はい。そうですけど...」
たしか、俺のことは偽名で登録しているはず。
どんな名前だったっけ...思い出せない。
余計なことに気を取られそうになる俺を、スマホの向こうの声が引き戻した。
『私、Aの職場の同僚の者なんですけど』
「...同僚の方、ですか？」
どうして職場の人が、Aのスマホを使ってかけてきたのだろう。
心なしか、口調が焦っている。
嫌な予感がして、思わず息を潜めた。
『あの、私たち、今◯◯病院ってところにいて...』
「えっ？？」
思いがけない大きな声が出て、大倉が驚いたようにこっちを見る。
「◯◯病院...？」
『はい。実はAが...』
スマホを持つ手が震えた。
同僚だというその子の声がだんだん遠くなっていって、わけがわからなくなった。
床についているはずの足に、膝に、力が入らない。
『〜〜〜なんです。それで...』
だめだ。
混乱している場合じゃない。しっかり聞かなければ。
恐怖で泣き出しそうになる自分を奮い立たせて、スマホを強く握り直す。
大きく息を吸って、落ち着け、落ち着け...と心の中でつぶやいた。
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作者名：えみゅ | 作成日時：2022年10月23日 22時
