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「松倉くんて本当、歌上手だね」
「いや、そんなことないよ」
「そんなことあるよ。みんなもすごく喜んでたし」
「だといいけどね」
「それに、予想以上に素敵な曲だった」
「......ありがと」
Aちゃんに出会ってから、もともと書いている途中だった歌詞もすべて書き直した。
あれがAちゃんのことを歌った曲だというのは......きっと、気づいていないだろうな。
「......あっ」
突然、Aちゃんが声を上げた。
視線は窓の外に向けられている。
「どうしたの?」
「星が......」
「星?」
ソファーの上にある窓から、確かに星が見えた。
群青色の夜空にちらちらと光る粒たち。
川島先生の言った通りだ。
標高が高い土地のせいか、空がいつもよりもずっと近くに感じる。
「綺麗だね」
「うん......」
「星がよく見えるところだって川島先生も言ってたしね。Aちゃん、星が好きなの?」
「うん。好き」
俺に言われたわけじゃないのにドキッとしてしまうのは、星空を見つめるAちゃんの目が、星と同じくらいに輝いているからなのかな。
「松倉くん、流れ星って見たことある?」
「あるよ」
「えっ?本当?」
「一回だけね。一瞬の出来事でわけわかんなかったけど。でも間違いなくあれは流れ星だったと思う」
流れ星が消える前に祈ると願いが叶うらしい、ってことは朧げに知っていたけれど、そのときは突然すぎてそんな余裕はなかった。
今だったら、俺は何を願うんだろ.......
一番に思い浮かんだのは、今隣にいる人の、眩しい笑顔。
「私も一回だけあるよ。夢の中で、だけどね」
「えー、夢かぁ」
「そう、夢だったの。せっかく願い事言えたのに、夢だってわかって悲しかったなぁ」
Aちゃんはそう言って、窓の外を見つめたままで苦笑した。
夢の中で祈ったのは、どんな願い事だったのかな。
現実じゃないと知って悲しくなるような、大切な願い事。
Aちゃんが星に祈るほど、叶えたかったことは......。
「......今日さ、」
なんとなく想像がついて、それ以上考えるのはやめにした。
「なんで俺を誘ってくれたの?」
「えっ、......やっぱり嫌だった?」
「え?そうじゃなくて。俺の知らない人もいるし、単純に疑問、っていうか」
「そっか。そうだよね」
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作者名:えみゅ | 作成日時:2023年5月25日 21時