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「松倉くん、やっぱり上手」
「Aちゃんが少しでも元気になれればって思ったんだけど」
「えー?元気だよ?」
「そう?俺の知ってるAちゃんとはちょっと違うみたいだけどね」
横で一生懸命に作っていた笑顔が、ふっ、と真顔になる。
「.......あのね、」
「うん」
「突然でびっくりさせちゃうかもしれないんだけど......」
「どうしたの?」
「私たち.......別れるかもしれない」
「えっ?」
別れる?
今、別れるって言った?
Aちゃんの表情はいたって真剣で、俺が聞き返す隙なんてない。
「夏休みの間ずっと話し合ってて......とりあえずしばらく離れてみようってことになったんだ」
「離れてみる、って......」
「もともと別居だし、そんなに変わらないんだけどね。ただ前みたいに週末一緒に過ごすっていうのも今はしてなくて。連絡も取ってなくて」
「え、待って待って。なんでそんな話になってんの?」
黙って聞いていられなくて思わず口を挟んだ瞬間、Aちゃんの目からは涙が溢れ出た。
きっとずっと我慢していたんだろうな。
そう思うくらい、一気に。
「私にもよくわかんない。なんでこんなことになっちゃったのか......」
「宮近先生がそうしようって言ったの?」
Aちゃんが小さく頷く。
「別れたほうがいいって......このままいてもお互いのためにならないから、って......」
何が何だかわからなかった。
確かに、Aちゃんが宮近先生のことで悩んでいたのは事実だ。
先生に寂しい思いをさせられている、ってことは、俺も何度か聞いていたからよく知ってる。
だけど、別れ話が出ることなんてないと思ってた。
このふたりには、そういう選択肢は最初からないものだと思っていたのに。
詳しい事情はよくわからないけれど。
そんな話をしたら、Aちゃんがこんなふうになるってこと......宮近先生、なんでわかんないんだよ。
「私はただ......海斗と一緒にいたいだけなのに......」
「わかったよ。もう喋んないでいいよ」
「うん......ごめん......」
「どうしたらいいか一緒に考えよう?」
「うん......」
「大丈夫。俺はそばにいるから」
抱きしめるのに、迷いなんてなかった。
頼りなげな体を腕の中に閉じ込めながら、どうしても考えてしまう。
俺だったら絶対、こんな思いはさせないのに......って。
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作者名:えみゅ | 作成日時:2023年5月25日 21時