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難しいな。
どっちもいいのにどちらかひとつを選ばなきゃならない、なんて。
贅沢な悩みなんだろうけど、でも決められない。
だって本当に、どちらも素敵だと思うから。
" どっちもいいから決められないよ "
正直に返信した。
すぐにスマイルマークのスタンプが返ってきて、思わずふふっと笑う。
" どっちがいいと思う？" と松倉くんから送られてきた動画は２本あって、どちらも映っていたのは、自分の部屋でギターを弾く松倉くん自身の手元のみ。
奏でているのは、ひとつは爽やかな夏空を思わせる、連続する高音が魅力的なもの。もうひとつは秋の野原のように壮大で、音の広がりが厚く耳心地の良いもの。
松倉くんがキャンプで披露してくれたものの次に取り掛かっているオリジナル曲で、サビの部分をふたつの候補から決めかねているらしい。
そんな大事なことを私に選べというのは、最初から無理な話なんだけどな。
" でもどちらかというと最初のがいいかな "
" 俺もそうかなと思ってた "
" なんとなく夏っぽくて元気になりそう "
" ありがとう。それじゃ最初ので進めようかな "
一呼吸置いて、メッセージが続く。
" 先生帰ってきた？ "
左上の時計表示に目をやる。
海斗から聞いていた帰宅時間は少し過ぎたところだった。
" そろそろかな "
" それじゃ俺も風呂入ってこようかな "
" わかった "
" またね。ご協力ありがと！ "
海斗が帰ってくるまで、という約束で始まったやりとりは、ここでおしまい。
私と海斗のプライベートタイムを邪魔しないようにと、松倉くんが気を遣ってくれてのことだ。
あんな変なお願いをしたというのに、相変わらず、松倉くんは優しい。
メッセージのラリーを終えてから、もう一度動画を聴き比べていると、リビングのドアが開いて海斗が入ってきた。
玄関のインターホンは鳴らなかったから、自分で鍵を開けたのだろう。
咄嗟に動画を止めて、スマホをソファーの上に伏せた。
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作者名：えみゅ | 作成日時：2023年5月25日 21時
