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「あいつらと同じように出会って同じように過ごしてたとしても、俺らって結婚してたのかな」
それは、どういう意味?
そう尋ねる間も無く、いきなり覆い被さるように抱きしめられた。
ぎゅうっと締めつけてくる腕に呼吸が乱れて、苦しい。
私の様子など関係ないかのように力を込める海斗は、母親に必死にしがみつく子供のようで。
いつもは優しすぎるくらいに優しい海斗が、まるで違う人になったみたい。
あの性急なキスといい、さっきから......なんだか変だよ。
「A......」
囁くように呟くと、海斗は私の耳たぶに噛みついて、舌で舐めた。
熱い息が頬にかかって、体中がそわそわする。
私の中の何かを求めて、耳や顎、首、鎖骨にまで、海斗は何度も何度もキスをした。
「かい、と......?」
「.......」
「......ねぇ、酔ってるの......?」
熱く抱きしめてくるその体は、今までで一番、近くに感じるけれど。
でも、こんな酔ってる海斗なんて......嫌。
「......お願い、待って!」
両手で体を押しのけると、海斗ははっとして私を見た。
「いきなりどうしたの?こんなの海斗らしくないよ......」
ひとりのベッドで、ずっと思ってた。
海斗とひとつになりたい。
頭の上から爪先まで全部、海斗に愛されたい。
そう思ってたけど、でも......こんな海斗とは、ひとつになれない。
「愛してる」の言葉もなく抱かれるのは嫌。
そんなの、海斗だってわかってるはずなのに......。
「......ごめん」
ゆっくりと、体ひとつ分離れて、呟いた。
苛立った様子で髪をくしゃくしゃにして、海斗は苦しげに顔を歪める。
「こんな情けない俺で......ごめんね」
「海斗......」
「......なんか腹減んない?」
「デリバリーでもしよっか」とスマホを手に立ち上がり、海斗はソファーから離れた。
普段通りを装い、わざと明るく振る舞うその様に、何も言葉をかけることができなくて。
舌の上の苦味が、まだ消えない。
空っぽの缶をキッチンのシンクに置く音だけが、やけに虚しく私の耳に響いた。
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作者名:えみゅ | 作成日時:2023年5月25日 21時