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( みやちか
トレーラーハウスから降りてきた松倉は、外で待っていた俺に気づいても、動じるそぶりを見せなかった。
「松倉、ちょっといい？」
「......はい」
トレーラーハウスからも、対峙する俺らに気づかずに火の周りで語り合っている連中からも離れて、木々の中を少し歩いた。
木と木の間を縫うように通っている一本道には、ひと休み用のベンチが点在していて、適当に目についたひとつに並んで座った。
この一日、松倉とAのことをずっと目で追っていたから、あのトレーラーハウスの中で密会していたわけじゃないことはわかってる。
ふたりの会話や行動にやましいことなんて何もないことも、そもそもそういうことをするようなやつらじゃないってことも。
なのに......俺はどうしてこんな気持ちになっているんだろう。
数日前、問い詰めてくる海人に言い返した自分の言葉の白々しさが、今になって身に沁みてくる。
「疑ってるんじゃない」なんて......そんなの綺麗事だ。
「どう、楽しんでる？」
「うん。楽しいよ」
「朝早かったからさすがに疲れたんじゃない？」
「まあ、それなりには」
「松倉にとっては知らないやつらもいたけど、どうだった？仲良くなれた？」
「たぶん。海人さんもしめさんも、みんな優しいし。逆に知ってる人の前で歌うのはちょっと緊張したけど」
「そう？そんなふうに見えなかったけど。堂々としてて」
「いや。実はめっちゃ緊張してたよ」
「おまえ才能あるよな。すっごい良かった、あの歌」
素直な感想を述べると、松倉は小さく「ありがとうございます」と言った。
「でもさ。いっこ聞いていい？」
「なに？」
「あれは.......松倉自身の歌？」
叶わぬ想いを抱える主人公が、自分の恋心に気づかない想いびとを、ただひたむきに見つめ続ける。
松倉が「やっと完成した」と少し恥ずかしそうに言って歌ったあの曲の歌詞は、そんな内容だった。
「他の誰かのためでいいから、どうか笑っていて」
無性の愛が込められた最後のフレーズが、まだ頭から離れない。
「.......んー。どうかな」
曖昧にそう言って、松倉は首を捻った。
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作者名：えみゅ | 作成日時：2023年5月25日 21時
