みせて / s.y ページ10
み せ て / s.y
昼休みの体育館では、男子たちが楽しそうにわーわー声を上げながらバスケをしていた。
ボールを取ったり取られたり、投げたり投げられたりして笑い合う輪の中に、探していたクラスメイトの顔を見つけてほっとする。
手でメガホンを作って口に当て、私は大きく息を吸った。
そして、私の存在にまったく気づかないクラスメイトに届くように、大きな声で、叫ぶ。
「ねえー！松倉、松田ー！」
すると、まず松田が気づいた。
それから松田に背中を叩かれた松倉が、私を見て「おっ」みたいな顔をする。
ふたりは、他のメンツに何かしら声をかけ、輪を外れて私の元へやってきた。
楽しそうに、ニヤニヤしながら。
「よー、A」
「なに、見学？」
「そんなわけないでしょ」
「俺らのこと見に来てくれたんじゃないの？」
「バカ。先生が探してたから呼びに来ただけ」
さっき廊下を歩いていたら担任の堂本先生に呼び止められて、ふたりを見かけたら職員室に来るように伝えてほしい、と頼まれた。
クラス委員だから仕方なく引き受けたけど、本心では「なんで私が」と思いながら、渋々ここへ来たのだ。
「体育祭のことで用があるんだって」
「えー」
「めんどくせー。今バスケやってたのに」
「ふたり、体育委員と放送委員でしょ。行ってくれないと私が困るんだけど」
「わかったよ。そのかわり今度デートね！」
「は？」と思いっ切り言ってやろうかと息を吸い込んだ瞬間、ふたりの後ろから、頭ひとつ分背の高いその人が顔を出した。
「お、いたいたー」
そう言って、右腕で松倉、左腕で松田の肩をガシッと組んだ。
ふたりは慌てて振り返り「ずや兄！」と声を上げる。
「堂本先生が探してたぞ」
「今Aから聞いたって」
「ちょうど行くところだったんだよ」
「そ？んじゃ、いってら」
パッとふたりから両腕を離し、ニカッと笑う。
それから、「早く早く」と追い払うようにしてふたりを体育館の外へ追いやって、"ずや兄"は私を見た。
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作者名：えみゅ | 作成日時：2023年3月25日 22時
