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「.....あ、A！」
ふと本から目線を上げた如恵留くんが、私に気づき、声を上げた。
私はブーケを背の後ろに隠して、咄嗟に笑顔を繕った。
「おはよう」
「おはよ......」
「って、もうランチの時間だよね」
にっこりと微笑み、本を閉じてバッグに仕舞う。
所作がいちいち綺麗で、ますます気後れしてしまう。
「ごめん、待たせちゃった......？」
「全然！読書したかったから早めに来ただけ。......あ、ほら。ちょうど11時になったよ」
腕時計を私に向けながら、如恵留くんは優しく笑った。
こういうところ。
どんな些細なことも、絶対に私をかばってくれるところ。
いつも自信のない私に気づいていて、何も言わずに包んでくれるところ。
如恵留くんのその優しさが、背伸びをしようと頑張る私を、すぐに子供に戻してしまう。
ねぇ。私を甘やかしてどうするつもりなの。
このままじゃ、あなた無しじゃ何もできない子になってしまうよ。
「行こっか」
立ち上がった如恵留くんの目線が、不意に、私の肘のあたりに向かう。
さっきからずっと背の後ろに隠しっぱなしの手。
不自然極まりないのは、私にだってわかってる。
「......A、」
「えっ？」
「手、どうしたの？」
「え、......うん」
「何か持ってる......？」
すぐに言い当てられて、胸がギクッ、と鳴る。
「あの、これは、......」
「いつもありがとう」
そう言って差し出すだけ。
「大好きだよ」
その気持ちをただ、伝えたいだけ。
なのに。
体が固まって動けない。
こんなときに限って素直になれない。
あなたを想う気持ちだけは、誰にも負けないのに......。
「......A？」
優しく微笑んで、如恵留くんが一歩前に踏みだす。
ぐっと距離が近づいて、あまりに整ったその顔が、私のすぐ目の前に。
「みせて」
そして、そっと翼のように広げた両腕で、私の体をふわっと覆った。
「えっ？？あのっ、のえ.....」
「ん、これ？」
「あ......」
如恵留くんの手が、背中に隠していた私の手に触れた。
私の頭越しにブーケの存在を確認して「お花？」と呟く。
抱きしめられる、と思ったのは、どうやら勘違いだったみたい。
勝手にうっとりしそうになって恥ずかしいやら、せつないやらで、肩の力が抜けた。
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作者名：えみゅ | 作成日時：2023年3月25日 22時
