みせて / k.mi ページ4
み せ て / k.mi
ほんと、かっこいいなぁ......。
スマホのレンズ越しに映る姿に惚れ惚れして、思わずニヤけた。
カメラを向けた先にいる宮近くんは、鏡の前で振付を確認することに集中していて、全然こっちなんて見ていないんだけど。
午後の講義でたまたま席が隣になった。
同じ学年、同じ学部の宮近くんと私。
取っている講義がいくつか被っていることは知っていた。
だけど、今まで話したことも、目が合ったことすらなくて。
だいたいいつもひとりで座っていて、なんとなく、話しかけないでオーラが漂っている。
私から見た宮近くんはそんな人だ。
だけど、顔立ちなのか雰囲気のせいなのか、本人の意思とは関係なく、そこにいるだけで目立つタイプ。
どんなにたくさんの生徒たちの中にいても、少し周りを見渡すだけで、その姿をいつも簡単に見つけることができた。
そんなこと、本人はきっと、気づいていないだろうけれど。
「......あー、ムズイ！」
ステップを踏んでいた足を止め、宮近くんが天を仰いだ。
それを見て、慌ててカメラの停止ボタンを押す。
「急にごめんね」
「あ、ううん」
「今のとこ、全然うまくいかなくて」
「うん。とりあえずムービーはストップしてるよ」
「ありがと」
「うん」
首に巻いていたタオルで汗を拭う姿も、本当はカメラに収めておきたかった。
だけど、そんなことは宮近くんからの依頼には無いから、泣く泣くやめておく。
濡れた前髪を指で払って、ふう、と息を吐く横顔に見惚れてしまう。
鏡の中の自分と見つめ合い、じっと何かを考えている真剣な表情も、そのまま綺麗に留めていたいくらい、素敵で。
消えてしまうなんて勿体ないから、瞬きのシャッターを切って、心のカメラに焼きつけておこう。
こんな機会はきっと、２度とないから。
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作者名：えみゅ | 作成日時：2023年3月25日 22時
