みせて / k.ma ページ19
み せ て / k.ma
「別れたい」と言ったら、海斗は目を丸くして固まった。
『え.....なんで?』
「......もう無理、だから」
『無理って、』
「無理なものは無理なの」
シャットアウトするように言うと、薄いスマホの向こうの顔が焦り出す。
ビデオ通話の不鮮明な画像でもよくわかるその素直な反応が、いかにも海斗らしくて、胸が痛んだ。
『まさか......他に好きなやつでもできた?』
「......うん」
『嘘だね』
「嘘じゃない」
『嘘だ。俺わかるもん、Aが嘘ついてるときの顔』
「......」
だって......他に何て言えばいいの。
夢を追いかける海斗の邪魔をしたくない。
だから、その勉強のために遠距離になっても、最初のうちは笑って耐えていた。
でも、いつしかそういう自分に疲れてしまって、あるとき急に「もう無理だ」と思った。
久しぶりに会えた後の帰り道は、涙を堪えるのにいつも必死で。
嬉しいはずなのに、会っているときも離れた後のことを考えてばかりで、心から笑えなくなっていた。
そんな私のこと、海斗には知られたくなかった。
何より、海斗を応援できない自分になるのだけは、絶対に嫌だった。
「とにかく、もう海斗とはつき合えない」
『なんで?理由をおしえてよ』
「別れたいって思ったから。それじゃダメなの?」
『ダメ。そんなんじゃ納得できない』
「だからね。......私もう、海斗のこと.......」
好きじゃない。
嘘でもそう言えたら、楽になるのかな。
遠距離になっても、連絡は毎日くれていたし、こうしてビデオ通話で顔を見ることもできた。
休みの日はどちらかが会いに行って、限界まで一緒の時間を過ごして、気持ちを確かめ合ってきた。
海斗は一生懸命、できる限りのことを私にしてくれた。
だから、この生活に耐えられなくなったのは、決して海斗のせいじゃない。
会いたい。
会えない。
寂しい。
そんなこと言えない。
海斗のことが好きだから。
もっと、もっと、って、我儘になってしまいそうだから。
我儘になって、いつか迷惑をかける前に、嫌われてしまう前に。
どこかで終わりにしないと、このままじゃ、きっと今以上につらくなる。
『.....ねえ、A』
頑なになる私に語りかける海斗の声は、いつもにも増して、優しい。
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作者名:えみゅ | 作成日時:2023年3月25日 22時