#89 ページ47
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好奇心とは、かくも厄介なものである。
侑と歩いていたら、すぐ側の教室に人影が見えたから。もう電気消えてるのになんでやろって、そんだけ。ほんまにどうでもええこと。なのに、好奇心って名前をつければそれは簡単に片付けられる。要するに、俺は気になってしまった。
こそこそする訳でもなく、普通に方向転換。
侑は気づかないようだった。
足音は小さく、そして歩み寄る。窓際の後ろから3番目。机に伏せて眠っている。腕にかかる絹糸みたいな髪。規則正しい呼吸。寝息。エアコンがきいているせいか、少し寒そうな様子。
ああ、なるほど。
納得。妙な衝動にも、心なしか少し早い鼓動にも。納得。
「八重さん」
彼女を起こすための声じゃない。けど何も反応がないと、行き場を無くした呼び掛けは寂しさを帯びる。二人きりだと言うのに、不安感そして疎外感に包まれた。
華奢な手には、落ち着いた色のシャープペンシル。腕の下にあるのは日誌。筆圧はやや薄く、漢字が少し大きめの、丁寧な文字の羅列。きれいというより、八重さんの字、だった。
なんか意外だ。いやまあ八重さんに詳しい訳では無いけど、それでも。意外。というか、
「無防備、やなぁ」
スポーツバッグの奥の方、ぐしゃぐしゃに突っ込まれていたジャージ。引っ張り出す。季節が季節だし必要無いかも知れないけど、この教室は寒い。だからといい、起こせる雰囲気でもない、気がする。
それになんだか、危うい。なにかが。
肩にかけてやった。それだけで、笑えるレベルの安堵が湧く。
俺八重さん好き過ぎやろ。
部活始まるまで、あと7分。
あとちょっと。もうちょっと、だけ。
その場にしゃがんで、八重さんの顔を拝んだ。それだけで、付き合えなくても幸せ、と思える。
けどそれはある種のフィルター、それも極薄のやつでしかなく。
ぴったり閉じられた瞳を捉えただけで、心臓がぎゅっとなった。鳴った。自分でも分かるくらいに頬が熱くなった。
瞼には人間性が透けて、睫毛は頬に影を落とす。腕で顔半分は隠れているのに、それだけで、「綺麗」だと思ってしまうのだ。いよいよ重症。けどそれも、仕方がないように思える。だって、かわいい。
皆知らないねんな。
勿体無い。
けど、知らんままでええ。
遊佐も知らんで、ええ。侑も。あかん。
俺だけ。
俺だけが知っていたい。
そっと、その頬に触れた。
刹那。
閉じられていた目から、涙が一粒零れ落ちた。
恋を呑んだ。
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しお(プロフ) - 大福丸◎さん» 遅れた所の話ではないほど返信が遅れてしまい申し訳ありません泣泣 本当に嬉しいです…今更になってしまいましたがコメントありがとうございました！ (2022年1月23日 23時) (
レス) id: 12c83b804f (このIDを非表示/違反報告)
大福丸◎(プロフ) - すごいよかったです！気づいたら３時間以上はこの小説読んでました笑 もー、本が出版されてたら買いたいレベルです！！笑 久しぶりにこんなにハマりました (2019年8月8日 21時) (レス) id: 4787af4ccb (このIDを非表示/違反報告)
しお - アオさん» いえいえ、こちらの配慮不足でもあるので......汗 こんな文章ばかりですが、良ければこれからもお読み頂けると嬉しいです！ (2018年8月1日 20時) (レス) id: 12b75cb48a (このIDを非表示/違反報告)
アオ - 了解です。何でもかんでも質問してすみません。 (2018年8月1日 18時) (レス) id: 9d036889eb (このIDを非表示/違反報告)
しお - アオさん» 曖昧な部分でもあるので、難しい場合は読み流して頂けると嬉しいです (2018年7月30日 16時) (レス) id: 12b75cb48a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しお | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=harushiomb37
作成日時：2018年5月6日 15時
