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『わたし、かわいいんやねえ』
八重さんの口から出てきた言葉にしては、少し浮いたもののような気がした。掴みどころが無いのは変わりないが、その「かわいい」は異質にふわふわしていて。
ただ、スマホから聞こえるやわらかい笑い声を、俺は好ましいと思ったってだけ。
彼女は口に出さずとも、どこか漠然と悲観的な含みを持っている。
それがスタンダードの中で、自分を肯定するその声は妙に明るく聞こえたのかもしれない。
八重さんは不思議な女子だ。
卑屈な表情を浮かべたとしても、嫌味は嫌味に聞こえないし、こっちが少し腹を立てていたとしても、彼女が僅かに笑えばそれだけ許してしまえる何かがある。
それに顔立ちも、八重妹に比べたら素朴であるというだけで、端正。
確かに、八重さんは「かわいい」。そしてその「かわいい」を知る奴は少なくていい。
最近考える。
「好き」っていうのは、何もかも許してしまえる怖さがある。
けど、「好き」なままで終わらせたくないと思っている自分も居る。
どうだろう。俺が遊佐のように告白したら、彼女は受け止めてくれるのだろうか。それともやっぱり、「分からない」で距離を置かれてしまうのだろうか。
まだこの関係を壊しかねない選択はしたくない、けど、さっさと伝えて楽になりたい。
機器を握る手が汗で滲んだ。急に現れる無機質な温度が、焦燥を煽る。
侑のときも、こんな感じだったのだろうか。
感情に急かされて、その果てが、拒否だったのだろうか。
俺も、同じ道を辿ってしまうのだろう、か、
『あのね、』
何も知らない声が、唐突に触れた。
それでようやく俺は我にかえって、同時に自分の心臓がばくばくと荒いでいるのに気づいた。
全身が熱いのは、きっとエアコンが壊れたせいではない。
夏のせいではない。
八重さんの、八重さんの、せい。
優しくて、かわいくて、俺の好きな子、八重さんの＿＿＿＿おまえの、
『わたし、ちょっとだけやけど、分かった気がする』
くらくらする思考の隙間に、すっと織る風。
......ああ、そうだ。
ここまでに心荒ぐのは、八重さんのせい。
けども、喉に貼り付く舌を解いてくれたのだって、八重さんだった。
『わたし、遊佐くんのこと、逃げないでちゃんと考える』
「、＿＿っ？」
『ありがとう』
ミヤオサムのおかげ。
優しいおかげだ、と。
彼女は笑った。
俺があの雨の日についた嘘は、まだ許されていないことを知った。
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しお(プロフ) - 大福丸◎さん» 遅れた所の話ではないほど返信が遅れてしまい申し訳ありません泣泣 本当に嬉しいです…今更になってしまいましたがコメントありがとうございました！ (2022年1月23日 23時) (
レス) id: 12c83b804f (このIDを非表示/違反報告)
大福丸◎(プロフ) - すごいよかったです！気づいたら３時間以上はこの小説読んでました笑 もー、本が出版されてたら買いたいレベルです！！笑 久しぶりにこんなにハマりました (2019年8月8日 21時) (レス) id: 4787af4ccb (このIDを非表示/違反報告)
しお - アオさん» いえいえ、こちらの配慮不足でもあるので......汗 こんな文章ばかりですが、良ければこれからもお読み頂けると嬉しいです！ (2018年8月1日 20時) (レス) id: 12b75cb48a (このIDを非表示/違反報告)
アオ - 了解です。何でもかんでも質問してすみません。 (2018年8月1日 18時) (レス) id: 9d036889eb (このIDを非表示/違反報告)
しお - アオさん» 曖昧な部分でもあるので、難しい場合は読み流して頂けると嬉しいです (2018年7月30日 16時) (レス) id: 12b75cb48a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しお | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=harushiomb37
作成日時：2018年5月6日 15時
